⑧温かい食事で囲んで
魔王となる前、さらに能力に目覚める前の相田に最初に出会ったリールもまた、この三か月を苦悩と共に過ごしていた一人であった。
母親を戦火で失い、紆余曲折あって父親と共に王都の一等地で宿と酒場を経営しているが、王都の復興に合わせて発生している物資の不足、高騰する食料や生活用品の値段、溢れる戦災孤児や仕事を失った者達による治安の悪化は、早々に解決できない社会問題へと発展している。
そんな状況の中、値段を可能な限り据え置きにしている『アルトの森と湖』は、王都の住民や貧しい人々と共に、必死に生きてきたのである。
だが戦争が終わっても、彼女の心は沈んだままであった。その原因は、彼女を知る者ならば当然であり、その事を告げなけらばならなかったコルティもまた辛い立場にあった。
「彼女の為にも、少しでも有益な情報をもって帰りましょう」
彼女は三か月前のあの時を思い出す。
―――そっか。
コルティから全てを告げられたリールがほんの少し俯き、最初に発した言葉であり、それ以上何も返そうとしなかった。その時の、全ての感情が絵の具のように混ざった彼女の表情を、コルティは今でもはっきりと覚えている。そして、一生忘れる事はないだろうと心に刻んでいた。
それだけに、この旅を自分の為だけでなく、彼を知り、慕う者達全員の為にも、何かしらの成果を得る必要があった。
「さぁ、肉だけじゃなく、野菜もありますから」
コルティは焚き火の中に長い枝を入れると、中に入っていたものを転がすように引き寄せ、布の塊を取り出した。
「これは………耐火の布?」
「ええ、クレアさんに作ってもらいました………あちち、あちっ!」
マキの言葉に対して、正解だとコルティが手の中で何度も布の塊を左右に転がしながら苦笑して答える。そして、ようやく長く触れる程にまで冷ませた布を、指の先で摘まみやすい部分から少しずつ何度も触り直しながら、ゆっくり開いていく。
布の奥から、湯気と共に皮のついたジャガイモが顔を出した。
「柔らかさも………えぇ、十分ですね」
コルティは、布越しに持ったジャガイモにナイフで十字の切れ込みを作ると、後ろに隠してあった小さな箱から黄色い塊を取り出し、ナイフで切った欠片をジャガイモの溝に落とし込む。
「え、それってバター? 超高級品じゃ…………え、コルティ、いつ買ったの?」
今の一欠片で、夜の酒と夕食代に相当する。ケリケラは、もったいないと口を曲げた。
「いえいえ、これはロデリウスさんからの頂き物で………はい、できました」
コルティは布で半分包まれたジャガイモを、マキに手渡した。
「昔、御主人様から聞いて作ってみたのですが、ジャガバタアというそうです。バターは高級品なので、今まで作る機会がなかったのですが………あぁ、皮ごと食べて大丈夫だそうですよ。傷んだ部分は事前に切り落としてありますから」
「じゃ、じゃぁ」
全員の視線が、小さく口を開けたマキに集まる。




