⑦野営と焼肉
夜になると、風は一層冷えた空気を連れて来た。
「もう、冬は越えたはずなんだがな」
厚めの布を頭から被り、丸めた寝袋を座布団代わりにしているリコルが、白湯をゆっくりと喉へと落とす。
「ブレイダスは、城壁に囲まれていましたからね。それがなくなった今、北風が好き放題しているのでしょう」
隣のマキも同じ格好で兄に寄り添い、彼を風除けにしながら中心の焚き火に薪をくべる。冬を越えて自然に乾燥した枝は綺麗な音を立て、風音を一瞬だけ掻き消そうとする。
ブレイダスの跡地から、南へ三十分程馬車で離れた森の中。コルティ達はそこで一夜を過ごす場所を決めた。元冒険者でもあるリコルの指示で幌付きの馬車を風上になる北側に設置し、さらに降ろした荷物や薪で馬車の下部等の隙間を埋めると、簡易的な風除けの壁が出来上がった。
「さぁ、できましたよ」
料理番のコルティの合図で、全員が声を漏らしながら焚火に向かって手を伸ばす。その先には、今日の夕飯である干し肉が串に刺さって炙られている。
旅の必需品である干し肉に濃厚な熟成ダレを浸した事で、肉に纏わりついた液体から小さく泡立ち、どろりと肉片の隅から一滴落ちる毎に焚き火を囲む石の上で短い音を立てて蒸発していく。その時の口の中にまで届きそうな深い匂いが、全員の食欲を誘惑する。
「おいおい、これが干し肉の味なのかよ」
リコルが子どものように目を輝かせながら肉を頬張り、口から湯気を吐く。時折、熱さで苦しそうに空気を吐き出すが、干し肉に詰め込まれた味の密度とそれを表面に浮き立たせたタレとの相性を飲み物で流せず、熱さを覚悟の上で何度も空気を口から出し入れしていた。
「コルティ。このタレって、リールのお店で使ってたやつだよね?」
串を横にしながら、肉を1切れずつ口の中に入れていくカレンが、味の正体を見破る。
「ええ。何でも南の国から取り寄せた調味料を複数混ぜ合わせ、何日も寝かせたものだそうです」
コルティが両手で包んでいる秘蔵の壺を周りに見せた。
「お代わりもありますから、どんどん食べてください」
肉の刺さった串を壺の中のタレに浸し、再び焚き火の周囲に刺し込んでいく。流通すらしていない秘蔵の一品の為、二度付けしたが最後、命はない。
「戻ったら、お礼言わなくちゃ」
串についた最後の肉を口の中にいれ、カレンが満足そうに笑顔を見せた。
「ええ。シモノフでお土産も買っておきましょう」
コルティが笑顔で頷く。




