⑥メイドと元勇者
そこへ、手が二度叩かれる。
コルティだった。
彼女は肩をすくめながら『はいはい』と、子どもの意識を切り替えさせるように声をかけ、場の空気を戻した。
「御主人様の魔剣は、誰にでも触れられるものではありません」
ならば、ここに置いたままにしても問題はないとコルティが結論付ける。
「兎に角、今は野営できる場所を探しましょう。カレンさん、リコルさん。あなた達も、寝ながら鼻で砂を食べたくないでしょう?」
胸を張り、腰に手を当てて口元を緩める。
その言葉に全てが詰まっていた。カレンもリコルも、何も言わずに頷くのみである。
ケリケラも、彼女の言葉に乗りかかる。
「じゃぁ、ボクが空から回って、辺りの様子をもう一度確認してくるよっ!」
「………野営は木の多い南側が良いだろう。偵察が終わったら南に戻って来てくれ」
周囲に詳しい事もあり、リコルが適切に指示を出していく。
「それじゃぁカレンさん、私達は馬車を南に運びましょう」
「う、うん。そうだね」
マキに合わせるように、カレンも後をついていく。
「………すまん」
残ったリコルが視線を合わせず、背を向けたままコルティに詫びる。
「奴に言われた事を何度も思い出すんだが………駄目だな。まだまだ勇者には程遠いザマだ。仲間の気遣い一つ出来ないんじゃ、また馬鹿にされそうだ」
自分の拳を強く握り締め、リコルは口を閉じながら白くなっていく手を俯きながら見つめる。
「………かもしれません」
コルティも砂埃で汚れたメイド服を払いながら彼に近付き、馬車のある方向へと歩き始める。
「ですが、あなたがカデリアの民の為に身を粉にして動いている事を、私は知っています」
そしてリコルとすれ違う。
「それ位なら、助けて差し上げましょう」
「………借りが返せなくなる前には、何とかしよう」
乾いた笑みを見せ、リコルは黒い剣に一度だけ目を向けると振り返り、彼女の後を追った。




