①二度目の奇跡
黒い粒子が雨のように降り注いでいる。
それらは全て、あの魔王だった者の成れの果てであった。
「まだだ。まだ終われない」
ガーネットとフォーネを犠牲にして辿り着いた二度目の現象に、相田は足を前に運ぼうとする。だが、冷め始めた意識が、これまでの興奮による疲労を受け止めきれずに足がもつれ、自身の左足と右足が重なって転倒した。
「ぐっ!」
息が強制的に口から出て行く。
転んだ場所を振り返るが、右足が痙攣していた。筋肉の両端を引き裂くような激痛に襲われ、所々で出血が見られている。どこで傷付けたのかさえ、相田は理解できなかった。
「くそっ! ここまで来てっ!」
止まれない。相田は前を向き直す。
その視線の先、凹凸の激しくなった石畳の角にかかるように、赤黒く焦げた手袋が落ちていた。僅かに元の色である白が見えるだけだったが、その所有者は既にこの世にいない事を相田は知っている。
手袋を握ろうと脳が命令したが、相田は自分の右肩が上がらない事に今更ながらに気付く。質量を無視した高射砲を生成し、人間の体で維持しようとした反動が、相田の予想を超えて全身を襲っていた。
「………終わらせねぇ………絶対に終わらせねぇぞっ!」
この状況を放置すれば、間違いなくアスタロッテが黒い粒子を結集させて復活する。そうなれば、もう一度この機会を、三度目の奇跡を呼び起こす事は不可能となる。
「………フォーネ! 俺はまだっ!」
相田は残った左腕を伸ばし、手袋を掴み取る。
その時、相田の体が淡い緑の薄膜に包まれた。
絶え絶えだった呼吸は落ち着き、今にも意識を失いそうな程の疲労感と痛みが、相田の体から地面へと漏れ抜けていくように消え去っていく。
相田の動きが一度止まる。
「流石だよ………俺の必要な時に、いつもお前は俺の為に尽くしてくれていたな、コルティ」
全快には程遠いが、相田は左手を地面に押し付けて必死に起き上がると、引きずりにも近い足取りで歩き始め、偶然近くに落ちていた魔剣を拾い上げた。
「出番だぞ………双子竜」
剣を地面に着き刺し、体を預けながらも魔剣に念を送り、相田はラハームとラフームを呼び出す。
双子竜を呼び出す為には、その依り代となる贄が必要となる。
だが、召喚に必要な栄養はあらゆる所に存在していた。
相田の近くで漂っていた黒い粒子は魔剣の周囲に呼びつけられるように集められ、巨大な黒い塊が二つ現れ、次第にいつもの骨格を形成し始める。
―――魔剣がもつ死を操る力と双子竜召喚に伴う黒い粒子の消費。
それが相田が切り札としていたアスタロッテ復活阻止の方法であった。
戦いの中、何度も双子竜を呼び出そうかと悩み続けていた相田だったが、ここにきて温存してきた意味に無限の価値が生じる。




