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⑨黒は散り、そして会する

「何だ、まだ生きていたのか?」

 一件落着としたタイミングで、瓦礫を踏み崩す音が聞こえてくる。

 最早どこまでが広場だったのか分からない惨状だったが、王城に続く大通りとの境目で、戦いとは程遠く場違いな貴族の服を着た男が現れた。


「あぁ、すっかり忘れていた」

 相田は疲れた顔で男を睨む。

「まだ生きていた? それはこっちの言葉(セリフ)だぜ? 裸の王様さんよ」

 肩をすくめ、一息つけた。

「一足、いや二足は遅かったな。残念だが、勇者もどきのガキんちょも自慢のおばさんも、綺麗に片付けておいた」

 体の節々がまだ痛むが、ただの人間であるパーカス王一人を相手にする事は容易い。相田は呼吸を落ち着かせながら姿勢を維持し、ややふらつきながらも足元に落ちていた魔剣(エビルカリバー)を拾い上げる。

 そして周囲を一瞥する。

「さて………」 

 パーカスよりも、周囲で未だに展開している怪物達の方が余程危険だった。

 こういった展開では、主を失った事で怪物達が消滅するか、節操もなく暴れるのか辺りが定番だが、無意味にその場で立ったままである。襲い掛かってこない事は、相田達にとって幸いだが、反って不気味さが滲み出ている。


「いいや………宴はこれからだ。偽物」

 日が西に傾きつつあった。空の色はまだ変わらないが、障害物の減った広場に吹く風に、若干の冷たさが運ばれてくる。

 パーカスは右手の人差し指に深々とはめられた指輪を相田達に見せつける。西日を浴びたその宝石は透き通るような紅と中心に蠢くような黒い渦を映し出していた。

 地面や瓦礫、さらには空気中から黒い粒子が湧き始める。

「これでも、俺とこの国の全てを賭けているのだ。前菜如きで満足して退座するのは、いささか礼を失するというものだ」

 黒い粒子は何かを探し始めるように揺れていたが、やがて自分よりも大きな集合体に向かい始め、それらが渦のようにまとまり始める。

 まるで宇宙の塵が集まり、星が出来上がるようであった。

「さぁ、かつてこの国を滅亡寸前にまで追いやった(いにしえ)の魔王の味。最後までじっくりと堪能してもらおうか」

 綻びどころかしわも見えない黒いドレス。対極な白い肌をもつ貴婦人の姿が、パーカスの横に顕現する。


「まったく………冗談、きついぜ」

 体を消滅させても蘇る。下手に変身する流れよりも(たち)が悪い。いっその事、負けイベントとして仕切り直して欲しいという冗談が、相田の頭によぎり始めた。

 しかし、人生に負けイベントは存在しない。

 敗北は死に直結する。

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