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⑦黒を斬る

「ほぉ。中々に美しい一筋よのぉ」

 アスタロッテの腰まで魔剣(エビルカリバー)が斬り上がったが、その先を彼女の小さな扇子によって堰き止められる。

「だが、人の剣技は所詮―――」「キャンセル」

 相田は彼女の背後に回っていた。

 格闘ゲームでは必須の技術。攻撃と次の攻撃の動作の短縮化を図り、相手に隙を与えない連続した動作。本来であれば通常攻撃の連続から必殺技へと繋いで終わるのだが、相田はそれを大技と大技の短縮化として言葉に紡ぎ、より強いイメージに繋げていた。


「秘剣、燕返し」

 侍の時代に謳われた剣豪が編み出した魔技。燕を斬る為に生み出された(それ)は、引用する物語によって解釈が異なるものの、相田は抜刀で振り上げた勢いのまま、アスタロッテの背後で首の後ろまで剣を運び、そこから異なる角度から成る三つの斬撃を、一呼吸で解き放った。

 キャンセルの技が可能になった事で、時間的な制約を緩和させる事に成功した相田は、三つの弧を描く斬撃をほぼイメージ通りに発動させ、アスタロッテの腹部、胸部、頭部を確実に捉える。


 だが、相田が切り落とした物体は、目の前に現れた一枚の黒い壁だった。


「惜しい。実に惜しいのぉ」

「だが………壁は斬った」

 黒い壁を突破できなかった、自身のジンクスを即座に上書きさせる。黒い壁は綺麗な断面を見せつけながら崩れ落ち、一瞬で黒塵へと還る。


「ふん」

 相田の声を鼻で笑ったアスタロッテは、目の前の相田に開かれた右手を見せる。そして、五本の指全てから闇を生み出した。

「森羅万象、塵芥(ちりあくた)と化すがよい」

「ホーリークロス!」

 相田も右手から閃光を解き放つ。

 だが、五本の指から放たれた闇を討ち払うには、絶対的な光量が不足していた。

「何のぉ! 左からぁ、にぃ発目ぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 声を脳に届けるように口を大きく開き、相田は伸ばした左手からも同量の光を解き放つ。光は漆黒の波動を押し返し始め、相田の周囲を明るく照らし始めた。

「往生際の悪い。大人しく、吾の闇に飲まれるがよい」

 謙虚ある勝者のように落ち着いた言葉が、相田に後がない事を暗示させる。


 対する相田が、その言葉に勢いよく息を吐き、笑い飛ばした。

「背水の陣ってやつはなぁ。追いつめられてからが、本番なのさっ!」

 窮鼠猫を噛む。相田も自分を奮い立たせるように冗談を飛ばし、全身を巡る血液にうねりを巻き起こす。

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