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②奇襲

 最も近い敵までおよそ十メートル。


 何も出来ない相田は、真上を見上げた。

 気のせいか、ポーンとサージンがいる様子が感じられない。


「少しは気付けるようになってきたか?」

 近付いてきたザイアスが大きな体を低くしながら嬉しそうに隣で笑う。どうやら勘は当たっていたらしく、二人は既に移動していたらしい。

 シリアがデニスの目を窺う。

 隊長が広場の様子を確認し、すぐに頷き返した。


「ギャッ!」「ギギッ!」


 シリアの投げた二本のナイフが、最も近くにいた二匹のゴブリンの額と首元を、小汚いローブごと貫く。さらに、他のゴブリン達がその声に気付いて振り向くと同時に、一本の巨大な矢が直線上にいた二匹のゴブリンを貫き、残りのゴブリンも別の方角から飛んできたナイフで胸を突かれ、絶命する。

 まるで一人が行ったかのように、六匹のゴブリンがドミノ倒しのように順々に倒れていった。


「………すげぇ」

 思わず相田の口から声が漏れる。

 相田は自分が見た光景を受け取めるのに、数秒の時間を要した。シリア達は並々ならぬ強さを持っていると以前から感じていたが、その姿を実際に見たのはこれが初めてだった。

 シリア達は声を掛け合う事もなく、狙う敵とタイミングを定めていた。

 まず副長のシリアが指示を出すデニスの側に立つ事で最初のタイミングを担当し、狙う敵は最も近い二匹と決まる。そしてポーンの大型弓の性能から、一射で二匹を仕留められる位置に動き、そして残りが最も遠い位置にいる二匹をサージンが担当するという思考を、一言も発さず一瞬にして連携させたのである。

 まさに経験からなせる神業であった。


 デニスはサージンの合図を受け、周囲を警戒しながらも中央の石碑に集まるよう指示した。



「思ったよりデカイな」

 ザイアスが拳でノックをするように石碑を叩く。

 相田もそれを見上げた。

 

 石碑は高さ二メートル程、幅は大人の倍、まるで部屋の壁を見上げている状態に近い。厚みは腕一本程で石の表面は漆のように鈍い光沢を放ち、表面はほぼ平らに整っているが触ると土や埃が拭われる跡が残った。

 自然に任せたこの森の中において、この場所には不釣り合いで不自然なものであった。


「相田君の予想は当たっていたようだね」

 ゴブリンの死骸を調べ終えたテヌールが石碑の一部を杖で叩く。

 相田の膝ぐらいの高さに何かが刻まれていた。今使われている文字ではない。

「随分と古い文字だね。どれどれ………『全ての命を飲み込みし黒き双子の竜、我ら英雄の黒き剣に討たれる。願わくば、永遠の眠りから覚めぬ事を』か。やはりこれは兄弟竜の墓標のようだよ。凄い発見だねぇ」

「冗談じゃないぜ!」

 ザイアスが足下の土を蹴り、黒壁に浴びせる。

「あいつら、そんな奴らを蘇らせるつもりだったのかよ!」

「恐らくこの森特有のクレーテル濃度を用いて、術の威力を上げようとしたんだろう。さらに、ほれ。地面に引かれた白く細い線だが、魔力増幅の魔法陣の痕跡すらある」

 だが、それでも術は難しかったようだと、テヌールは杖で白線を断ちながら結論付けた。

「さすがに数百年前の死者の精神を拾うには無理があったのだろう。それ程心配する必要はないね」

 テヌールの講義が終わるのを待って、デニスは全員に声をかける。

「よし、続きは帰ってからだ。このまま古城を目指すぞ」

「隊長! ポーンから連絡です!」

 シリアが叫んだ。

 暗い森の中から何度か不自然な光が放たれる。矢じりを月明かりで反射させた彼からの合図だった。

 相田は目を細めて光のタイミングと光った回数を数える。

 だが相田が暗号の答えを出す前に、他の面々が石壁を背にしながら森を睨んだ。


 瞬間。

 相田の耳を裂く音が一筋横切る。

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