⑥黒き試練
「そう落ち込む必要もなかろうて」
アスタロッテが目を大きくさせ、そして哀れみを込めて眉をひそめる。
「貴様はたったの二本と言ったが、そうではない。吾の指を二本も使わせたのだ。吾にそうさせる者はまずいない。むしろ貴様は誇ってよいのだぞ?」
冗談でなく、本気で語るのだから質が悪い。相田は話半分で聞こうとするも、視界に入る情報と矛盾し合い、心と頭が軋み始めた。
アスタロッテは左手を広げると、無限に湧き続ける光をまるで紙のようにくしゃりと握り潰し、相田の放った技を風に乗る埃のように霧散させる。
「っ! まだだっ!!」
魔剣を壁から引き抜き、相田は自分に発破をかける。
「まだ、終わってはいない!」
恐怖に包まれれば、それは即ち敗北と死を共有する。心を握り潰そうとしてくる彼女の微笑から必死に逃れようと、例えその言葉が定型文だったとしても、相田は無理矢理にでも声を荒げ、そして大袈裟に後退して剣を構え直した。
「そうじゃな。簡単に終わってはつまらぬ。何せ数百年分の乾きぞ、もっと足掻いてみよ」
長年に渡って封じられてきた反動、飢えと渇きを満たして欲しい。アスタロッテはそう訴えるかのように相田を見降ろし、小さな火傷の痕があった人指し指の先端を舐める。
無表情を装い、相田は地面に倒れるフォーネとガーネットを一瞥する。どちらも動きはないが、僅かに呼吸をしている様子が見えた。だが、それぞれを頂点とする三角形の中心にアスタロッテが立ち、容易に近付事はできない。
「こうなったら、あらゆる技を試し続けるまでだ!」
魔剣を鞘に納める。
それしかない。
考える時間が長くなる程、余計な事を考えそうだと相田は呼吸を落ち着かせた。
そして、脳裏であらゆる物語の本をいくつも開き、最適な技へと変換させる。
「縮地」
その一声で、相田はアスタロッテの目前まで移動する。
彼女の黒い瞳は、相田を最初から見下ろしていたが、両手を構える素振りもなく相手の動きを待っていた。
「魔人御剣流!」
相田は大きく鞘側の左足を大きく踏み出し、腰の回転を最大限に引き出して魔剣を抜刀。天を駆ける一閃を解き放つ。




