⑤黒の鉄壁
鳴り響く重厚な金属音が、何重ものの空気の波を作る。
「うっそぉぉぉ!」
フォーネの口が上下に細まった。
拳の先には何もない。
だが、分厚い鉄板を殴りつけたかのような音と共に、フォーネの拳が静止させられた。
「ふふふ」
アスタロッテが扇子を上へと一度扇ぐと、フォーネは風に下顎を殴られたかのように仰け反り、続けて戻すように下へと扇ぐと、空中のガーネットが首元を押さえつけられたかのように地面へと墜落する。
「こん畜生がぁっ!」
やや遅れてアスタロッテの側面を捉えた相田が、魔剣を外へと払うように薙ぐ。
「ほほほ。貴様には見えた方が良いのだろう?」
突如、相田の前に漆黒の直方体が現れた。
「なっ!」
驚きによる想像力の欠落が相田の一撃を弱め、壁を半分まで裂いた所でその動きを失う。
「ほぉ。それでも半分か………怖い怖い」
思ってもいない言葉を並べ、アスタロッテは肩を小刻みに揺らしていた。
「だが、これで貴様の攻撃は吾に届かなくなったな?」
確実に能力の弱点を突く為に、相田の耳に入れる周到さ。相田は無言で睨み返すが、彼女の微笑みを止めるには至らない。
「ならば、試してみるか?」
相田の目を見たアスタロッテから声をかける。
「あぁ。そうさせてもらおう」
相手の挑発を敢えて受け、剣の柄を強く握り締めた。
だが相田は、黒い壁に阻まれた刀身にではなく、その切っ先に意識を向ける。
「むっ?」
「ホーリークロス!!」
壁の断面から僅かに見える魔剣の先端から放たれる相反する色の閃光を、相田はアスタロッテに叩き込んだ。
自分の能力が相手に見破られていると判断した相田は、相手の意表を突く戦い方に切り替える。彼女の言葉や態度が、自分の力を削ぐよう仕向けられているならば、その思考に従わない行動こそが自らの能力を維持できる唯一の手段だと即決した。
閃光は地面の一部を焼き払い、最後は青い空を斜めに裂いた。
だが巨大な光の渦が、直角に現れた黒い刃で裂け始める。
「闇の深淵たる魔王が光を生み出すか………本当に貴様は世の理を無視するのぉ」
黒く深い瞳が、白い光の中から相田を覗き貫く。
「………冗談じゃねぇぜ。たったの二本指でかよ」
城壁を溶かす熱線は、アスタロッテの立てた左の人差し指と中指によって敢え無く止められていた。




