④黒に挑む
「………ししょー! ガーネットがいないよっ!?」
フォーネの言葉に、相田はまさかと慌てて首を回す。
だが、先程までいた位置にも、それ以外の場所にも赤い巨体の姿は見えなかった。
「む?」
アスタロッテが頭上を見上げる。
その瞬間、彼女が炎の滝に包まれた。
「ガーネット!」
吹き下ろされる熱風から顔を守ろうと相田が両腕を前に伸ばしつつ、その隙間からガーネットを捉える。ガーネットは傷付き、破れかけていた翼を懸命に羽ばたかせながら、空気中から酸素を奪う程の轟炎を吐き続けた。
「待て! ガーネット、今すぐ下がるんだ!」
相田も自身の肌を焼きつつ、今は後退するよう訴え続けた。
「ガーネット!」
しかし、時間は待ってはくれなかった。
全てを炭化させる炎も、球体状に吹き荒れる黒い風でかき消され、その中心から白い肌の魔王が姿を現す。
「何と、無粋な炎か」
アスタロッテが扇を広げ、煙たい空気から口元を隠す。
「蜥蜴風情の炎で、吾を焼けると思うてか」
扇を持つ腕が広がっていく。
「フォーネ!」「はい! ししょー!」
相田とフォーネが同時に飛び出した。
そして無言で左右に分かれると、アスタロッテを挟み込むように曲線を描きながら接近する。
「ここで来るか………」
アスタロッテは扇を持つ手とは逆の左手を静かに振り払った。すると黒い靄が指先から生まれ、それらは密度の薄い複数の塊となって相田達に襲い掛かる。
一つ一つは人一人を包み込める程度の大きさ。ガス状の生命体を連想させるかのような鼓動と霧の合間から見える短い放電現象は、触れればただでは済まない様相を見せていた。
フォーネが先行する。
彼女は黒い靄を避ける為に地面を蹴り、左右に体を振れながらアスタロッテとの距離を確実に詰めていく。相田も黒い盾で黒い靄を押しのける。
だが、アスタロッテは、自身の攻撃が避けられているにもかかわらず、終始不気味な微笑みを維持していた。
「おばさん! 覚悟ぉ!」
まずはフォーネが先に間合いへと入る。彼女は最後の一歩を飛び込みに使い、自分よりも背の高いアスタロッテに覆いかぶさるように、振り上げた拳を彼女の顔へと向けた。




