③黒の閃光
アスタロッテが、人差し指を相田達に向ける。
静かに、そして細い指が相田とフォーネを一点に絞った。指は関節の位置を忘れさせる程になめらかな曲線を維持し、肩と同じ高さで固定される。
「まさかっ!」
相田は咄嗟にフォーネの前に立ち、両手を前に突き出しながら両足を広げた。
アニメや漫画でしか見た事がない世界。
全ての光景が暗転する。
あらゆる面が黒くなり、面を繋ぐ線のみが白と化す。まるでモノクロの反転、写真のフィルム。
その世界がアスタロッテの指先から創られていた。
「うおおおおおおおおおぉぉっ!」
黒い光が束となって相田達に襲い掛かり、無常に通過していく。
「ししょーっ!」「絶対に出るなよ! 絶対にだっ!」
それは、黒い津波かレーザーの類だった。
だが、黒い盾で防ぎ続けている相田の体は、熱さも寒さも、さらには痺れや痛み、あらゆる五感が同時に全方向から刺激を受けていた。耳に潜り込んでくる音は低く、脳の中は台風の音を拾うマイクのようにあらゆる音が優先して介入してくる。
しかし相田は音に負けじと集中し、強制的に入ってくる雑音を無視すると、今度は音の中から呪詛のような声だけが強調されていく錯覚に陥っていった。
説明の必要すらない、純粋な『恐怖』。
最期はその一言に集約される。
実際に相田が受け止めていた時間は、数秒程度だが、本人達からするとまるで分単位の出来事だった。ようやく視界が晴れ、景色の色が元に戻ると、相田は細めていた目を開く。
「ほぅ。防御だけはかなりのものじゃ。てっきり、消えてなくなったと思っていたがのぉ」
目の前の淑女は顎を突き出し、後ろを向けと訴えた。
「………冗談じゃねぇ」
振り向いた相田の後ろには、何もなかった。
正確には南部の大通りに連なる家々があったが、それがくり抜かれたかの様に何もなく、外壁すら貫いて校外の平原と地平線を相田達に見せている。一見すれば神官職の最大魔法であるホーリークロスと同等に思えるが、くり抜かれた面は焼け焦げた訳でも、溶けた訳でもなく、残骸も残っていない。
彼女の言葉通り、この世から消滅したように何も残っていなかった。
相田の脳裏に、彼女の技の威力が強制的に記憶される。この技を直撃した場合、相田はこの世から消えてなくなる事になった。




