②黒と化す
「ぉぃぉぃ。マジかよ」
相田もフォーネも息を呑む。
アインが、自らの影に体を侵食されていったのである。
「嫌だ………助けてよぉ! 死にたく………死にたくないよ!」
彼がその異常な光景に気付いた頃には、既に腰から下は粘り気のある影に引きずり込まれていた。アインは膝を立てようとするが、影が体を引くように、どんなに力を入れてもビクともしなかった。
それを見届けるアスタロッテが悦に満ちた顔で小さく笑い出す。
「残念じゃな。もっと早く、自分の立場を理解出来ていれば………すぐに死ぬ事もなかったのにのぉ」
「ひっ。た、助け—――」
アインの姿は小さな水面と同時に、その姿を消した。
つい先程まで少年が座っていた場所を、相田とフォーネは茫然と眺める。そして相田は自分が必要以上に意識していた事にはたと気付き、目頭を押さえながら誤魔化そうとした。もしも同じ技を仕掛けられた場合、相田は自分の能力が災いして、簡単に抜けられなくなる。
「あぁ、これだけは返してもらわなければ」
アスタロッテが右手を伸ばして指で招くと、丸い影から孔雀緑の鎧が浮き上がった。
「勇者の鎧………」
鎧が浮き上がり、アスタロッテがそれを手に取る流れを相田が眺めていると、彼女が饒舌に話し始める。
「忌々しい話じゃが、この鎧は吾の力が利用された代物でな。封印された際に、魔力を根こそぎ抜き取られたのだ」
詳細は話さず、彼女の目は鎧を通してどこか遠くを見ていた。しかしすぐに彼女は手に触れていた部分から鎧を黒く染め、溶かし、それを自分のドレスに流し込んでいく。
魔法と空想に満ち溢れたファンタジーな世界であっても、それを越える超常現象が相田達の前で起きていた。
―――次元が違う。
相田の中にある最も近い単語が浮かび、最も意識してはいけない単語が並び始める。
「ししょー。あの人が持っている力は………良くない力です」
「どういう意味だ?」
事実だけならば、今更言うまでもない。相田は、その先に未だに言葉にできていない部分を尋ねた。
「あの人の力は、最初から黒いの………うまく言えないけど、皆と違う色を持っている気がします」
「黒い力」
相田は、フォーネから目の前にいる黒い貴婦人へと視線を動かす。彼女の言葉にどれだけの真実が含まれているかは分からないが、少しでも古の魔王としての能力を理解しておきたかった相田にとって、色という認識は重要な位置にあった。




