⑮飲んでも飲まれるな
相田が魔剣を振り上げる。
「ししょー!」「っ!?」
背中からかけられた声で我に返る。
目の前では、肩から流血したまま地面で蹲っている少年が震えていた
「………くそ。何をしているんだ、俺は」
力に溺れた人間の驕りを砕こうとして、自分自身が溺れかけていた。相田は剣に纏わせていた雷を黒い粒子と化して振り払う。
相田は少年に背中を向ける。
「や、止めて下さい。し、死にたくないよぉ。怖いよ………お母さん」
すすり泣く声が後ろから木霊する。
アインの心は既に折れていた。
元の世界で、彼がどのような立場だったのかは想像でしか考える事ができないが、相田は彼が先程の思考に至るなりの事情があったのだろうと、遅れながらも結論付け、同情の水で感情を冷やす事にした。
「助かったよ。フォーネ」
「えへへー」
相田はフォーネの頭上に手を乗せる。
自身の能力を高める為とはいえ、言葉が乱暴になり、全てを見下すような顔になっていた事に気付けなったと相田は自省する。
「………ん」
相田はフォーネに触れた手のひらから伝わる冷たさに気付いた。
手の熱が、相手に向かって抜けていく。
「ししょー?」
彼女が相田の表情に気付いたのかは分からないが、相田はフォーネに乗せた手を静かに離した。
「いや、何でもない」
相田は彼女の言葉に表情をつくり直す。そして、震え始めた奥歯を必死に止めようと口の中を噛み、痛みで紛らわせようとする。
「さて、聞きたい事は山程あるのだが、な」
どこから来て、いつからこの世界に呼ばれ、どうやってこの世界に招かれたのか。
未だに蹲るアインに、いくつも聞きたい事があったが、相田はその全てを飲み込み、再び周囲に集まり始めた怪物達を一瞥する。
「まったく。中々に、楽をさせてはくれないな」
一体何匹いる事やらと、相田は後ろ首を押さえながら溜めた息を吐き捨てる。
「さっさと片付けて、家に帰るぞ。フォーネ」
「はい! ししょー!」
四方から迫る怪物達を前に、相田とフォーネは互いに背中合わせた。




