⑭幼い器には大きすぎた力
姿勢を保てず、その早さから止まる事ができずによろめきながら近付いてきたアインの胸ぐらを、相田が掴み、勢いよく引き寄せた。
「勇者っていうのはなぁ、自分で名乗るもんじゃないんだよ」
突き上げるような低い声。相田は左の踵を軸にして体を回すと、掴んだままのアインを頭上へと持ち上げ、そのまま振り返りながら彼の背中を地面へと叩きつけた。
「自然と呼ばれるようになって、一人前だ。俺もお前も、まだまだその域に達していない」
「くっ、ひゅぅあっ!」
背中の全面積を叩きつけられたアインは、自分の意思に関係なく強制的に空気を吐き出す。そして彼の口から出て行ったきりになり、新たに空気を吸おうとしても、吸い方を忘れたかのように胸が動かず、彼は両手足をばたつかせながら溺れ始めた。
「さぁ、先代と我慢比べだ」
相田は魔剣に黒雷を纏わせていた。
「ぎゃあああああああああっ」
呼吸が始まった途端、アインの右肩は魔剣に貫かれ、同時に全身を黒い雷撃が走り廻る。電流柵に触れたかのように、彼は全身を痙攣させながら目を大きく開き、口も裂けんばかりに開けたまま泡を吹き始めた。
「どうした? まだ一回目だぞ」
既に相田の剣は少年の体から抜かれ、黒雷の充填を終えていた。
―――恐怖。
それはアインにとって、初めての感情だった。
異世界に召喚されて誰もが認める力を得たはずが、それが全く通用しない相手を前にしていた。勝てる見込みがない。自分が殺される可能性。彼は相田によって、強制的に恐怖を植え付けられ、体に染み込まされていった。
二度目の雷撃をアインに打ち込みながら相田が呟く。
「理解したか? こいつが恐怖だ………相手を殺すなら、自分も殺される覚悟をもたなければならない。さっきまで、お前は持っていなかっただろう?」
それは許されない。
相田は自分自身が見て、聞いて感じて経験してきた事を、目の前の少年にも追体験させようと、虚ろな目のまま魔剣を三度振り上げた。
「ご、ごめんなさ―――」「駄目だ」




