③一人だけの援軍
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舞い上がる土埃とは逆に、崩れかけていた城壁が完全に崩落する。
「来たな………白兎」
セルの頬が緩む。
力尽き、立つ事すら叶わないカレンの前で、純白の法衣を纏ったフォーネが毅然と立っていた。
「フォーネ………さん」
限界を迎えた両腕から血を流し続けながらカレンが呟く。
身の丈に合わない技を放ち、その反動で彼女の腕は曲げる事も剣を握る力も残されてはいなかった。それでも彼女は立ち上がろうと砕けた石畳の上に乗せた膝を必死に震わせ続ける。
「はいはい。死にかけさんは静かにしててよ?」
カレンの背後から黒い翼の少女が舞い降りる。
「ケリケラ。カレンさんをお願い」
セルと相対しながら、フォーネが背後に声を届けた。
ケリケラは呆れた顔のまま溜息をつくと、仕方がないと肩をすくめる。
「りょーかい。りょーかい。そう言う約束だからね………でも時間だけは気を付けて」
「うん。ありがとう」
背中で語るフォーネの言葉。ケリケラは一抹の不安を抱いていたが、その先は言葉にせず、静かにカレンの腰を左右の足の爪で掴むと、そのまま街の中心へと飛び去っていった。
「さぁて、準備はいいかな? おっちゃん」
フォーネが拳を交互に握り、骨を鳴らす。
瞬間、セルは大きく口を開けて空に向かって笑い出した。そして、ひとしきり笑い終えると、動かしすぎた腹を押さえつつ、目に溜まった涙を指で払う。
「いやぁ、悪い悪い。馬鹿にしたつもりは全然ねぇんだ」
体の緊張がほぐれ、セルが肩を交互に回し始めた。
「小さな兎娘が、俺とタイマン張ろうってんだ………しかも、冗談じゃなくて本気でやり合うつもりってんだから―――」
セルが勢いよく両手を合わせて大きなを立てる。
「―――こっちも本気になるしかねぇだろうよ?」
セルがエクセルの名前を叫ぶ。
すると、その声に応えるように城壁の残骸から銀色の精霊がゆらりと姿を現し、首を振りながら体の埃を払い落とす。
「いつまで寝ているつもりだ? もう次の戦いが始まるぜ」
「………確認しました。マスターの要望により、武器に戻ります」
エクセルは体を崩し、見慣れた大剣へと姿を変えた。
ゆくりと、そして堂々と歩くセルはそれを握ると、大きく左から右へと一度振り、周囲の瓦礫を一掃させる。
「さぁて、仲間の下に戻れるのはどっちかな?」
セルが左手をフォーネに向かって突き出し、指を何度か曲げてかかって来るように挑発した。




