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⑦英雄の娘

「貴様ぁ!」

 後方で待機していたカレンの小隊の弓兵が射線を確保し、矢を放つ。他にも弓を持った騎士達が次々と斉射し、崩れた前衛が補充されるまでの時間を繋ごうとした。

 だが、直進するはずの矢は、セルの手前で強制的に落下し、その全てが石畳の上で次々と力尽きていく。

「無駄無駄ぁ! 俺に飛び道具(そんなもの)は効かねぇんだよぉぉぉっ!」

 セルが大剣を縦の大振りで投げ放ち、弓兵達をそのまま巨大な質量に巻き込ませる。大剣は避け損なった哀れな弓兵の体の一部を引き千切り、石畳に突き刺さってさながら墓標の様にそびえ立った。

 それでも騎士達も諦めてはいない。リバス騎士総長の指揮の下、騎士達は文字通り命を懸けてセルの足止めを図り続ける。そしてロデリウス達後続の騎士達が崩れた城壁を抜け終わり、残った前衛の騎士達もう動ける者達から移動を始めた。


「カレン! もういいぞ、よくやった! 貴様の隊も早くここを抜けるんだ!」

 馬に乗ったリバス騎士総長が、カレンとセルとの間に立つ。彼女はロデリウスを運び戻って来た仲間達に左右の肩を持ち上げられ、立ち上がる所であった。

「騎士総長………お役に立てず、申し訳ありません」

 仲間を失い、自身も傷付き、目の前で先輩達が切り捨てられる様を見続けた彼女の言葉に力はなかった。

「何を言っている! 貴様がいなければロデリウス殿は殺されていた。貴様の隊の献身がなければ、我ら騎士団の前衛が態勢を立て直す時間を稼ぐ事は出来なかった! それが、そんなに不満かっ!?」

 敢えてリバスは声を荒げてみせた。

「い、いえ」

「もっと胸を張れ。貴様はやはりデニス殿の娘なのだ」

「………ありがとうございます」

 カレンの目から小さな涙がいくつも零れ落ちる。


「ほぉ………何か聞いた事がある言葉が入ってきたなぁ」

 騎士達に囲まれた中心から、落ち着いた男の声が聞こえてきた。

―――瞬間。

 セルを囲っていた騎士達が一斉に血を吹き出し、その場に倒れて絶命する。

「な、何が起きたかっ!」

 手綱を操り、驚く馬を落ち着かせるリバスが、赤く染まったセルを睨んだ。

 今まで見た事のない光景が広がっていた。

 セルの周囲で戦っていた騎士達の体は、まるで何かが通過したかのような無数の小さな穴が撃たれ、そこから大量の血液が零れている。近くにあった城壁もあらゆる所に穴が掘られ、今にも自重で崩れ落ちそうな状態だった。

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