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Lost12 優しき青年は、冷酷な魔の王になれるのか  作者: JHST
第七章 覚悟と危機感と想像を
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②急転する空気

「相田君、午後は魔法の特訓だよ?」

「あ、はい。よろしくお願いします」

 既に食器を片付けていたテヌールが、食後の緑茶を自分で用意し、一息ついていた。


「しかし、いつになったら魔法が使えるんだ?」

 テヌールに続くように、デニスも食器を片付ける。ここでは立場、階級に関係なく、自分の食器は自分で片付けるのがルールであった。

「いやぁ、自分にもさっぱり」

 相田も席を立って食器を持ち運ぶと、隊長の隣で自分の食器を洗い始める。

 気が付くと既にサージンの食器は綺麗に積み重ねられていた。いつ洗ったのかすらも分からない。やはり謎の多い人物である。


 実の所、この一か月の訓練で全く成果の無い分野が魔法だった。

 相田はほぼ毎日、テヌールが放つ炎を打ち消す訓練をしているのだが、いつも最後は火達磨にされている。


「もう、魔法は諦めた方がいいじゃねぇのか?」

 カードに負けたザイアスが、今日もシリアの分の食器を含めて運びに来る。

 狭い洗い場で、幅の広い男三人が食器を片手に手を濡らす。

「いやいや、彼は絶対に魔法が使えるよ。私が保証する」

 遠くで音を立てて緑茶をすするテヌールが呟く。

「隊長。彼がここに来たときに話していたやつがあったろ? ほら宮廷の魔法使い八人の………」

 テヌールは最後の一滴を飲み終え、湯飲みの口を軽くなぞる。

「魔法に抵抗力がある人間は、必ず魔法が使える。経験上、私はそう思っている」

 実際、とテヌールは洗い場にいる相田の背中を見つめた。

「炎の威力を毎日少しずつ上げているが、彼は何ともないぞ?」

「………はぃ?」

 思わず振り返る相田の引きつった驚きに、テヌールはにこりと皺の増えた頬で笑う。

 全く気が付かなかった事実に相田を含め、周囲が静まった。

「普通なら………いやいや、それ以上は言わん方がええの」

 ほほほと楽しそうに笑う魔法使いは、『先に行ってるよ』と腰を上げた。


 その時、ドアを叩く音が部屋に響き、城の兵士が入って来る。

「失礼します! デニス団長はいらっしゃいますか!?」

「ああ。俺ならここだ」

 濡れた手をタオルで拭い、デニスは洗い場から入口で立つ兵士に向かう。

「王女殿下がお呼びです。至急、会議を行うとの事ですので、謁見の間までお越しください」

「分かった。連絡ご苦労」

 隊長の声が低くなる。


 挨拶を済ませた兵士が部屋から出て行くと、先程の談話とはうって変わり、いつの間にか辺りに緊張感が漂い始めていた。


 デニスが全員の表情を確認する。

「悪いが、午後の訓練は中止する」

 そしてシリアの名前を呼ぶ。

「俺がいない間の指揮を任せる。二時間以内に出立できる準備を済ませておけ。ザイアスは食料と水の調達だ」

「分かりました」「ういっす」

 座っていたシリアが立ち上がり、ザイアスは自分の胸に拳を当てて頷いた。

「テヌールは馬の確保、ポーンとサージンは最低限の荷造りをして先行。残りの荷物はこっちで持っていく」

「任せておけ」「………」

 テヌールが肩をすくめ、ポーンは立ち上がると無言のまま頷いた。サージンは相田の見える範囲にはいないが、隊長が命令している以上、どこかで聞いているのだろう。


 一体何が起きているのか。相田には理解できないままだった。そもそも、行先さえ知らされていない中、どこに向かうというのか。相田の疑問は増えるばかりだった。

 普段から騎士と呼ばれるには程遠い崩れた雰囲気を作っている彼らが、張り詰めた空気を一瞬にして生み出し、一切の冗談が飛ばない世界を作り上げている。


「隊長、相田は………どうしますか?」

 シリアが相田に視線を向けながら尋ねる。

 デニスは無精ひげを擦るように顎に手を当てると、そのまま後ろ髪を掻いて決断した。

「こいつは俺と一緒に謁見の間に向かう。相田、ついて来い」

「は、はい!」

 相田はドアを開けたデニスの後を追いかけた。

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