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Lost12 優しき青年は、冷酷な魔の王になれるのか  作者: JHST
第三章 過去の英雄は魔王に挑む
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⑦バージル卿

「全くだ………出て来なければ、戦う事もなかっただろうに。残念だ」

 その声は正面からではなく、相田の背後から聞こえてきた。

 そして一瞬。視界がカメラのフラッシュのように眩く光を放つと同時に、相田の周囲にいた数十体の骸骨兵達が、白い灰となって浄化される。


「な………んだと」

 まるで背筋を硬い金属で押し付けられたかの様な圧力に、相田はすぐに振り返る事が出来なかった。

 時間にして二秒程度の現象だったが、相田はようやく背後の声に反応し、急ぎ振り返る。

 だが、そこには誰もいなかった。

「しまっ―――」「反応が遅い!」

 すぐに相田は顔を元の位置に戻し、本能に近いまま黒い盾(アイギス)を展開させる。

 ほぼ同時。

 相田の眼の前で白銀の点が黒い盾と接触し、激しく火花を巻き散らした。

「くっ!」

 相田は押し込まれた衝撃を受け止めずに足を浮かせて利用し、そのまま後方へと飛び下がる。


 目の前には、体の半身が隠れる程の大きな赤い外套(マント)を羽織った一人の将が立っていた。

 それは外套(マント)と同じ色の短髪の男。生地の部分が多く見られる程に軽装だが、白銀の胸当てを身に付け、同じ材質でできた騎兵槍(ランス)の片手で握っている。


「………バージル卿」

 相田の表情が苦虫を噛んだそれになる。

「本当に戦場で相まみえる事になったか。出来れば、そうなって欲しくはなかったよ」

 男は年齢によってややくすんだ赤い髪を左右に振り、兵士達に悟られない程度に何かを残念がった。

 だが、相田もまた頭を左右に振ると目を強く瞑り、すぐに表情をつくり直した。

 そして魔剣を一度鞘に納めると腕を組み、両足を小さく広げ、堂々たる魔王としての威厳を見せつける。

 今自分の正面に立っている男は、クレアの父親ではない。カデリア王国の大貴族にして、将軍である。相田はそう自分の心に何度も言い聞かせた。


「それが君の答えか」

 バージル卿が小さく頷く。

 そして本来は馬上で扱うはずの巨大な騎兵槍(ランス)を頭上で一回転させてから地面に水平へと構え、その先端を相田に見せつけた。

 カデリア兵達は事前に命令を受けていたのか、無言のまま徐々に後方へと下がり、バージル卿と距離を開け始める。

 次第に相田と二人だけの闘技場が出来上がった。


 街中の至る所で戦闘が繰り広げられているはずだが、この場所だけは静寂が支配していた。西風が割れた石畳の欠片を運び、さらにバージル卿の外套(マント)を波立たせる。

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