⑧恐怖と執念の狂乱
「親衛隊! 前へ!」
コルティが叫び、白黒のメイド姿の猫亜人達が、一斉に相田の前方へと走り抜けた。
「いくぞぉ!」「皆で………」「せぇのっ!」
彼女達は横一列で鋼鉄の三日月斧を振り上げ、中途半端な包囲網を形成していたカデリア王国兵士の左右正面の三辺を一斉に宙へと撥ね上げる。
だが、敵も左右の区画から軽装甲の兵士を投入してきていた。彼らは、突破された門や兵士達の成れの果てに一瞬怯むも、隊長格の指示で、すぐさま相田達の侵攻先で壁を作ろうと走り始める。
「敵を合流させるな! このまま突破する!」
落ちてくる兵士の残骸を避けながら、相田は相手をする必要はないと先頭を走り抜けた。
「御主人様! このままでは挟撃されます!」
「分かってる!」
次の門までの中間地点。左右の区画から送られてきた兵士達との距離は、既に十メートルにまで縮まっていた。
「お父さん達はそのまま走って! フォーネ、蹴散らすよ!」「あいさぁ!」
走り抜けた相田の左にケリケラが降り立ち、その反対でフォーネが急停止して構える。そして、ケリケラは胸の前で風を圧縮させ、フォーネが振り下ろされたカデリア兵の剣を二本の指の関節部で挟み止めた。
「トルネイド!」「んー………! 何か凄い一撃!」
二人の叫びと同時に、数十人の兵士達が異なる放物線を描きながら左右で舞い上がっていく。
ケリケラが放った空気の渦は、地面を削る横向きの竜巻となって直線状の兵士を吹き飛ばし、フォーネの捻りを込めた正拳突きは、兵士を軽々と後方へと突き飛ばし、それに触れた兵士達がボウリングのピンの如く吹き飛んだ。
先日の戦いを知ってか、街の住民は家から出ず、興味に負けた者の顔が窓から見える程度となっていた。家屋は決して無事とはいかないが、先日よりも遥かに戦いやすかった。
だが、カデリア王国軍の作戦は、既に常軌の外側にあった。
中間地点、左右の通りの挟撃を防いだ相田達の前にある商店街の家屋から、次々と兵士と住民達が姿を現したのである。
「そこまでするのかよっ!」
さらに二階の窓が開かれ、弓兵が姿を現す。
その背後には家の者か、女性と子どもの顔が一瞬相田の目に入る。
「この、クソどもがぁぁぁぁぁ!」
相田は黒の剣で召喚していた骸骨兵達を前面へと展開させ、武器を持った兵士や住民達の相手をさせた。
それでも、多数に圧され気味となり、相田の下へと数人の兵士と私服に革装備を纏った中年男性が襲い掛かる。
「魔王の手先め!」
どちらが放った言葉かは分からない。だが、相田は魔剣の力を解放し、『怨嗟の声』によって相手の動きを鈍らせた。
そして、相田は兵士を、遅れて駆けつけた骸骨兵が中年男性の体に朽ちた剣を突き立てる。
「済まない。あの世で恨んでくれて構わない」




