⑨足元の空洞
王国騎士団が、その数の少なさから西の大正門を突破出来ずに苦戦する。誰が見ても当然の結果だが、余裕の出て来た西側の将は、これを好機として突破された南へ援軍を派遣する。その感性を逆手に取り、相田達は、魔王軍がカデリア軍の攻勢を一手に引き受けるという当初の作戦に成功する。
西の敵兵が南へ割かれた事により、ウィンフォス王国の騎士団の負担は減る事になる。
「まったく………作戦通りとはいえ、やるせないな」
「全くで御座います。我らが王を囮にするなど」
相田の愚痴に、シュタインが同意しながら頷き、そして肩を一度揺らして笑って見せた。
全てはロデリウスの台本通り。ここまでの流れに一寸の狂いもない。
相田は周囲の状況を見渡しながら、予定通りの言葉を口にする。
「よし、城壁に兵を増員する。陣地防衛に回している重装甲の猪亜人の一部を城壁に上がらせて通路に壁をつくり、その隙間から小鬼達のタネガシマで迎撃させろ」
逃げ場のない狭く直線状の城壁の戦いがいかに恐ろしいか。鉄砲という新兵器の数が少なくとも、城壁ならばその力をいかんなく発揮できる。相田は、本で得た知識を応用させながら、シュタインに指揮を任せた。
「それと、今の内に………」
歩き始めた相田がすぐに足を止め、視線を下げる。
「御主人様?」
コルティが相田に声を掛ける。
「コルティ。数名の親衛隊を連れて城壁に上がってくれ。シュタインに代わって、城壁の指揮を頼む」
「………承知しました」
次に軍師の名を呼ぶ。
相田は何度か近くの石畳を数回ずつ踏み込み、その都度音を確認する。そして周囲を見渡し、家屋の近くにある小さく細い穴をいくつも見付けた。
「この下は………下水道か?」
「はい。雨水や生活排水を外部へと流す為、ある程度の大きさの街ならば、どこでも作られているものです」
シュタインも下を向くと、まさかとすぐに顔を上げ、相田と同じ結論に至る。
「………すぐに調べてくれ」
「畏まりました」
あの状況を作り出してきた相手である以上、最悪の事態は想定すべきである。相田は、すぐに下水道の調査を命じた。




