⑧橋頭保確保
「ししょー!」「お父さん!」
フォーネや親衛隊の猫亜人達が城壁に繋がる塔の階段を降りて相田達に合流する。ケリケラも上空からの偵察を終えて急降下してきた。
「お前達、よくやったぞ」
攻城戦において、最も被害が大きくなる門の突破を、容易に解決させたフォーネ達を労う。
「コルティ達もだ。お前達の技がなければ、城壁に上がる事にもっと苦労していたに違いない………しかし、いつの間にあんな技を?」
「お役に立てて幸いです。密かに訓練して身に付けた甲斐がありました」
コルティ達、親衛隊がスカートの裾を小さく持ち上げ、自信に満ちた笑みで頭を下げる。彼女は、相田の持っている漫画に登場する、『無数の武器を空間に内包する英雄』から学んだのだという。
空間魔法の応用らしいが、理屈はどうあれ、本の絵を参考にしただけで実現させる彼女達の才能に、相田は改めて驚かされる。
「さて、ここまでは順調だが………」
橋頭保を確保したが、ここは敵地。周囲の動きを確認しながら、相田は腰に手を当てた。
残った死霊達を最前線に配備して警戒させつつ、猪亜人達によって土嚢や木材が組み上げられ、防衛陣地が構築されていく。最も防衛に適している南の大正門の真下に、当面の食料や医療品等の物資が積まれていき、傷病者を含めた一時的な屋根のある休憩所が出来上がる。
東西に続く城壁と、次の区画に通じる大通りを確保できれば、完全にこの区画を制圧した事になる。
王都ブレイダスは、街中で戦う事も想定された城塞都市である。その最大の特徴が、無数ともいえる街の完全区画化であり、区画ごとに城壁と大小の門が設置されている。例えるのならば、船の浸水を防ぐ水密区画であり、隣の区画に移動する為には、必ず境目となる城壁と大小の門をその都度突破しなければならない。
当然、突破の際には門の前で集中攻撃を受け、突破後は半包囲された状態から戦闘が始まる。
カデリアの兵士達が持ち場である区画を死守する事なく、次の区画へと撤退した理由がここにあった。
まさに、街そのものが一つの戦艦である。多少の浸水ではびくともしない。
「魔王様。西門と東門に配備されていた城壁の敵集団が、こちらに向かって来るとの報告が入りました」
部下からの報告を受けて来たシュタインが報告する。
「西門? こっちの騎士団が展開しているのにか?」
相田が確認する。
「はい。西の大正門を突破できずにいる王国騎士団よりも、魔王軍を優先して叩こうと兵力を割いてきたようです………取り敢えず予定通りではあります」
シュタインも、敵の増援に対して左程驚く素振りを見せなかった。




