④城壁確保
「コルティ! フォーネ!」
相田が叫ぶ。
「はい!」「あいあいさっ!」
城門上の弓兵達が一時的に一掃された事で、相田達は僅かな静寂を手に入れた。コルティは腰を中心に体を捻り込むと、城門横の石壁に鋼鉄の三日月斧を真横にして叩きつけ、刃を深く食い込ませる。
「っ! まだまだ!」
いつの間に覚えたのか。彼女は左右の空間を割いてそれぞれに手を入れると、そこから新たな斧を取り出した。そして、最初に食い込ませた斧の刃を足場にしてコルティが飛び上がると、さらに高い場所へと刃を突き立てていく。
これが繰り返された。
そして、同じ光景が親衛隊の猫亜人達全員によって、等間隔の石壁に作られていく。
「フォーネが一番乗りなんだからっ!」
フォーネが先陣を切って、コルティが食い込ませた最後の斧の腹部に足をかける。そして勢い良く飛び上がると、巨人ですら飛び越えられない城壁の最上部へと辿り着いた。
「魔王様、お先に行かせていただきます!」
跳躍に長けた狼亜人族のツヴァイール達が相田の横を通り過ぎ、フォーネやコルティ達の後に続く。彼らは、猫亜人達が用意した斧を足場として壁を駆け上がり、軽々と城壁を登っていった。
ガーネットが大きな翼を羽ばたかせながら再び上空へと飛び上がっていく。
その大きな体と炎は強力だが、その大きさ故に、カデリア王国軍にとっても、魔王軍が攻めている場所が明るみになってしまう。
案の定、ガーネットが城門に張り付いてから数分後には、家屋や別の城壁から次々と矢が放たれた。巨竜とはいえ、その場に居続ける事が困難になり、ガーネットは余裕のある内に上空へと退避する。
一方で南の大正門の城壁を、フォーネやコルティ達親衛隊、加えてツヴァイール達、狼亜人族が占拠する事に成功する。
「周辺を確保する! 散開!」
ツヴァイールは左の鉤爪と右の長刀で、増援として派遣された弓兵を左右に断つと、次々と昇ってくる同胞達に城壁の左右に落ちていた樽や木箱で即席の障害物を築かせ、別方面からの援軍に対抗する事を指示した。
「そろそろか?」
門は閉まったままだが、安全地帯となった南の大正門前。ツヴァイール達が城壁へと登っていく背中を見上げながら、相田はタイミングを計り続ける。
「上空より報告だぎー!」
小鬼族のクルマンが相田の傍で、上空から放たれた光の点滅を読み上げた。
南の大正門の城壁を奪われたカデリア王国の兵は、それこそ躍起になって増援を呼び集めていた。他の城壁からの移動は当然、大正門の内側、城壁の下で待機していた兵士の一部も、城壁の階段や塔を登り始めたという。




