②青年と王女
「………情けないですね」
頭の上で声が響く。相田は声のする方に頭だけを動かした。
「そんな事で、我が国の役に立てるのですか?」
声の主は一度見た女の顔であった。
―――王女リリア。
あの時、謁見の間で王の隣にいた銀髪の眼鏡娘である。昨日と同じ白いドレス姿で石の廊下に立つ彼女と、その左右に護衛の女騎士が王女から一歩下がった所で立っていた。
「………」
相田は顔を戻して彼女の言葉を無視する。顔を見るだけで気分が悪くなりそうだと、そのまま視線を青空に向けて無心になる。
「王女殿下、次は会議のお時間です」
護衛の女騎士の一人が王女に声をかけた。
彼女はすぐに行くと二人の兵士に命令し、護衛の騎士を先に向かわせる。そして彼女は周囲を確認するように首を左右に振り、そして相田に向かって歩き始める。
無視するといっても草の上を踏む音、その音が大きくなり、王女が次第に近付いてくる事は、相田の感情の有無に関わらずに理解させられる。
そして音が止む。
距離としてはまだ二、三歩程離れているが、彼女はその足を止めていた。
「………済まなかった」
そう言うと王女は踵を返し、相田の返事を待つ事なく再び廊下に戻ろうと歩き始める。
「どういう意味だ?」
草を踏む音が小さくなる中、空を見上げたままの相田は彼女に聞こえる声で呟く。そして彼の声に反応するように、王女の草を踏む音が止まった。
「………昨日の貴方の言葉を実践しただけです。国益とはいえ、我々が貴方にした事は酷い事です。王族としての立場では言えませんが、個人的には伝えておこうと、そう思っただけです」
そう言い残し、王女は廊下に向かって歩き出した。
「あんたが謝る必要はない」
「しかし、私は王の娘です」
空を眺めながら吐く相田の言葉に、彼女は感情を乗せる事なく歩きながら、淡々と返してくる。
「関係ない。あんたは何もしていない。あんたの父親は許せないが、あんたに恨みはない」
王女は相田の言葉を聞き終えると、廊下の奥へと去って行った。
「………くそ。調子が狂う」
相手を王だと投影させ、あらゆる罵声を浴びせる事が相田には出来なかった。
怒りと優しさという両極端な感情が中点で交じり合い、細かくなりつつも一つにまとまらないまま回り続ける不安定な渦を描き続ける。
割り切れなかった相田は、次第に目の奥が痛くなった。




