⑧一族の誉れとなれ
だが、その表情は次第に曇り、困惑へと変わっていく。
「不満か?」
「し………しかし私は同じ仲間と比べて力は弱く、小賢しいだけが取り柄の蜥蜴と言われてきた半端者でございます。軍師という大役を与えられる事、感謝に耐えませんが、周囲の反発や不信等、魔王様にご迷惑がかかる恐れがございます」
直接辞退する表現こそ避けているが、シュタインの中では自身の喜びよりも周囲の反応を恐れている様であった。それは蜥蜴亜人族が水の加護を与えられた『戦士』の一族であり、戦う事を誉とする中において、頭脳だけ優れている者は揶揄される対象となっていたからである。
なけなしの知識の中であっても、その事実を知っていた相田は、正面で頭を下げ続けるシュタインの肩に置いた手に力を籠める。
「あまり余が………いや、俺が言えた立場ではないが、自信をもて。お前は今日から小賢しい蜥蜴ではない。魔王軍を指揮する軍師になったのだと一族に伝えよ。この瞬間からお前は、馬鹿にされる者ではなく、知恵もまた戦う力である事を知らしめる一族の誇りとして生きていくんだ」
「………おおぉぉ」
シュタインが項垂れるように膝をつき、号泣する。その涙にどれだけの想いが込められているのか、簡単には言葉にできない重みであった。
彼は相田の前で跪いたまま、胸の前で鱗に覆われた拳を強く握りしめる。
「感謝の………感謝の極み。これ以上の喜びは人生においてありませぬ。今まで疎まれ続けてきた意味は今日この瞬間、魔王様にそのお言葉をかけて頂く為であったのだと、確信に致りました!」
「あぁ、これからも頼む」
「はっ! 我が人生の全てを懸けて、魔王様にお仕えさせて頂きます」
相田もまたシュタインの目線に合わせて膝をつき、力強く頷いて見せた。




