②一人多い
鼻をすすり、コルティが落ち着きを取り戻し始めた。
その時、ドアが開けられ白猫の猫亜人が入って来る。
「………失礼します。何か大きな音が聞こえてきましたが大丈………何をされているんですか?」
ベッドに前屈みになって相田の胸に抱きつくコルティ、それを相田が彼女の背中と頭に手を回して撫でていた。その姿を見た白猫メイドのアトパラは、ドアノブに手を掛けたまま硬直し、今見えている現実を頭の中で自由必死に解釈し、勝手に膨張させる。
そして無表情のまま、白い頬をそっと赤らめた。
「………ずるい」
その一声に、相田が即座に察する。
「待て! これは違うんだっ! くっそぉぉぉっ! 何で俺がこんな展開にっ、しかも二回目だとぉぉぉぉぉぉ!? こ、コルティ、今すぐ離れよう!」
「………ぐすん。嫌です」
お約束は繰り返されてこそ意味がある。相田は見た事もない神から、二度目の試練を賜った。
アトパラは大きく一度だけ深呼吸した後、すっと右手を高く上げ、直立の姿勢で宣誓を始める。
「………三番手。魔王親衛隊、白猫のアトパラ。いかせていただきます」
目は至って冷静な彼女だったが、鼻息だけを荒くさせながら両手を蠢かせながら相田に迫っていく。
相田は必死に抵抗するが、力が入らず、抱きつくコルティの腕力からも解放されず、身動きが取れない。
「何で三番目だと知っている!? いやっ! それよりもっ………おっのぉぉぉぉれえぇぇぇぇぇ!」
後から相田は、腹部の傷がなくなっていた事に気が付いた。
「御主人様、珈琲です」
リビングのテーブル前に座る相田に、淹れたばかりの珈琲が置かれる。湯気が漂い、顔の前で霧散して消えていくが、匂いだけは相田の鼻に届いて空腹の体を刺激する。その匂いは、神経を通って脳へと伝わり、自然と目を覚まさせていく。
「あぁ、ありがとう」
コルティに感謝し、普段着に着替えていた相田は砂糖もミルクもないままにカップを口に付ける。熱さにやや我慢しながら喉を潤し、空の胃の壁に沿うように落としていく。
胃へのダメージは計り知れないが、お陰で完全に目が覚めた。
「ししょー! 朝ご飯残してあるから!」
左隣に座っていたフォーネが温め直してきたパンとシチューの残りを、自分の前から相田の前へとスライドさせる。
「でも、ソーセージだけは食べてたの、ボクは見ているからね」
「言っちゃ駄目ーっ!」
相田の正面では、腕の代わりに黒い翼を生やした少女が意地悪くフォーネをからかっていた。首にかかるかどうかの長さの髪も翼と同様に黒いが、両方に碧が僅かに線を引くように走っており、光の当たり具合では、黒の中に碧が反射する美しさをもっている。
「本当に二人はもう………朝から相変わらずですね」
新たに焼いたソーセージが乗った白皿を運んできたコルティが相田の前に置くと、残った一席に腰を降ろした。
「どうぞ、御主人様。私達は既に済ませていますので」
「あ、あぁ」
言い出すべきか判断に迷いつつも、相田はパンを摘まんで先を千切り、根菜類が豊富に入った色取り取りのシチューに浸して口の中に運ぶ。そして熱さで表面が割れたソーセージをフォークで突き、空になりかけていた口の中をさらに膨らませる。
「んん、んまい」
頷きと咀嚼を同時に済ませながら、相田は食事を続けた。




