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Lost12 優しき青年は、冷酷な魔の王になれるのか  作者: JHST
第六章 勝者は何処に
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⑭一撃

「リコル。勝負はついた、ここは引くがよい」

 ここが潮時だと、相田は判断した。


 妹でもあり神官マキは命を失い、魔法使いクレアは生死不明。重戦士の姿はついぞ見えないままだが、相田にとってこの状況は、勇者一行の崩壊という事実によって、自分自身の能力をより有利に運んでいた。

 同時に、相田はかつて戦友を失った時の自分の姿を彼に重ねていた。

 仲間の死。

 それは敵味方を問わずに辛く、乗り越える為には時間と覚悟が必要である事を、相田は身をもって知っている。

 例えそれが仲間の仇である勇者だったとしても、少なからずの同情を禁じ得なかった。


「………嘘だ………嘘だ」

 地面に膝をつき、杖を抱いたまま呪詛のような声が繰り返されている。

 相田は見るに堪え兼ねずに踵を返し、リコルに背を向けた。

「行くぞお前達。ここでの戦いは終わった」

 敵は勇者達だけではない。相田は自らこの場を離れる事を決める。

「いやぁ、楽しかった楽しかった!」

「じゃぁな、勇者ちゃん。がははははははは!」

 双子竜が、カラカラと笑いながら黒い霧と化し、相田の魔剣(エビルカリバー)の中へと戻っていった。

 戻ってこないフォーネやコルティ達、そして未だ戦い続けているシュタイン達の戦況も気にかけなければならない。相田は、勇者達によって費やされた時間を取り戻すべく、シュタイン達のいる方角に顔を向ける。


「嘘だぁぁぁぁぁ!」

 肉親を失った男の悲痛な叫びが、相田の背中を震わせる。

「………」

 それでも相田はリコルに声をかけなかった。彼に対する怒りと悲しみが混じり合い、かけるべき言葉は慰めか、それとも罵声か。相田にも判断できなかった。

「どうしてその優しさを、味方や相手にも向けてやれないのか」

 それだけは正直な気持ちだった。


 相田は、リコルの声を無視したまま歩く。

 呪詛のような彼の声が次第に遠のいていく。


「よくも………」

 だが次の言葉は、相田の背中から聞こえてきた。

 遅れてやってくる背中への激しい痛みと、視界の歪み。

「なっ、何ぃ………」

 相田が振り返ると、そこには拳を握っていたリコルが立っていた。

 同時に相田は、自分の足が地面から離れていた事に気付く。


―――視界の暗転。

 

 相田は今まで見えていた光景が、まるでテレビの電源を落としたかのように途切れた。

「がはっ!」

 視界がすぐに戻ると、そこにはリコルの拳が映っていた。

 脚に力が入らず、相田はそのまま地面へと右頬ごと倒れ込ぶ。

 『闇のアイギス』を放つ隙がなかった。朦朧とする意識下では、引き金(スイッチ)となる防衛本能(危機感)を、相田は十分に意識する事ができない。

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