④荒くれ者の館へようこそ
「ここが、兵舎だ」
「………マジっすか」
思わず膝が折れそうになる。
何度か城内の道を曲がりながら歩くこと数分、デニスと相田は城の北部の隅に佇む一軒の建物の前にいた。
二階建て、石造りなのでボロ小屋という表現が正しいのか分からないが、所々石に亀裂が入り、一部が欠けていたり、はたから見ても汚れが目立つ。
今まで歩いていた立派な白い城壁に対し、この建物は随分と年期が入っていた。日本であれば大した事のない地震でも、この建物は間違いなく崩れ落ちるだろう。それ程にまで朽ちていた。
「昔は教会だったらしい。まぁ、そう心配するな………兵舎といっても、ここは溜まり場みたいなものだ。別にここに住む訳ではないから心配するな。がはははは」
「………は、はぁ」
立派に見えていたデニスが、急に年相応の中年臭さを匂わせ始める。
「ついてこい」
彼が扉を開けた。
扉から漏れてきた、ざわついていた声が一瞬で消える。
相田は中の人間からの注目を一身に浴びた。
「全員、そのまま聞いてくれ。急遽だが、新しい仲間が増えた」
デニスは相田の肩に軽く手を乗せ、ゆっくりと前へと押し出す。
「あ、相田正吾………です。宜しくお願いします」
深々と頭を下げる。
だが、周囲の反応は何もない。まだ拍手のある転校生役の方がマシだった。
頭を上げて正面を向くと、何かが左頬の横を通り過ぎる。
相田がゆっくりと後ろを振り向くと、ナイフが小さく左右に震えながら石と石の隙間に突き刺さっていた。
「………ひ」
息を吸うだけの声が漏れる。
ナイフを投げたのは、大男とテーブルを挟んで向かい合って座っていた細身の女性からだった。
「隊長」
「何だ、シリア」
投げた本人に注意をする事もなく、デニスはシリアと呼んだ褐色の肌の女性に言葉を返す。
「そいつ、使えるんですか? ど~~~う見ても、普通の街男にしか見えないんですが」
シリアが細い足を組み直す。彼女は、二本目のナイフを指の間に挟んで『もう一本良いですか』と呆れた表情で刃物をちらつかせていた。
「その通りだぜ、隊長! 俺たちは泣く子も黙る第十騎士団! そんなひょろひょろな奴が強そうには思えねぇよ」
彼女とは反対の位置に座る超筋肉質、禿げ頭の男が下品に叫ぶ。
「………まぁ、お前よりかは男前だね。ザイアス」
「なんだとぉ!」
彼女の小言にザイアスと呼ばれた大男がムキになって立ち上がった。
騎士団という規律正しイメージが相田の中で音を立てて壊れていく。傭兵のたまり場、野盗の隠れ家と言い換えた方が違和感がない。
「―――で、実際は?」
部屋の隅、いつからそこにいたかのかと尋ねたいほどに存在感の薄い男が壁を背にして立っていた。病気と思う程にやつれた細身の男が、黒い布を纏ったまま刺すような瞳で小さく口を開ける。
「これはまだ秘密で聞いた話だけだが、こいつは武器も使わず、三人の重装兵を一瞬で殺している。一人は原形を留めず、残りは死体すら残っていなかったそうだ」
人を殺している。相田は下唇を噛み静かに彼の言葉を受け流す。
その話を聞いたシリアとザイアスが思わず目を開けて沈黙した。




