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①無力の底にある選択肢

 湿った空気と冷たい感触、相田は暗く狭い部屋で目を覚ました。

「ここは………って、見れば分かるか」

 三法を石畳みで囲まれ、残った一面に広がる錆びた鉄格子を目の前にして、すぐに自分が置かれている状況を理解する。

 両手を縛っていた麻縄は無くなっており、自由に体を動かす事ができた。久しぶりに自由になったと、相田は縄の痣と皮が剥けて赤く滲んだ腕をさすると、腕時計が取られている事、体の何箇所か手当てがされている事に気が付く。


「人を何だと思ってやがる………」

 気を失うまでのやりとりを思い出し、再び憤りかけた相田だったが、牢屋の予想以上の寒さにその熱もすぐに冷める。相田は近くにあった汚い毛布を纏い、余った部分を尻の下に敷いた。

 感情的になりつつも、今の相田に選択肢はない。

 本当に自分に力があるのか、それとも偶然なのか分からない。だが少なくとも今の自分にはこの危機を脱する力はない。下手をしてこれ以上抗い、リール達さらには村の人達に危害が及ぶ可能性も捨てきれなかった。

「糞ったれ」

 無力な自分を突きつけられ、心の底から悔しがった。

 だがどんな結末になったとしても、リール達を危険な目には晒せない。これは絶対に守らなければならない一線だと、相田は確認を込めて心の中で誓った。


 これからの事をようやく決断した相田に、牢屋の外から石の上を歩く乾いた音が聞こえてくる。

「やぁ、目が覚めたようだね」

 声の主はロデリウスだった。

 その隣にはガタイの良い、見知らぬ中年男が立っている。

「おやおや、いつもの皮肉は出ないのかい?」

「………出したいのを我慢している事くらい察してもらいたいんだが?」

 相田とロデリウスはお互いに意地の悪い笑みをこぼいい合う。

「という事は、我々に協力してくれると思ってもいいのかな?」

 一瞬の間はあったが、相田はロデリウスを睨みながら小さく頷く。

 頷くしかなかった。

 結構、と満足そうな顔でロデリウスが牢屋の鍵を開けた。

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