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Lost12 優しき青年は、冷酷な魔の王になれるのか  作者: JHST
第九章 魔王が降る日
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③宣戦布告

「女王陛下。民達が陛下の誕生を祝うために集まっております!」

 ロデリウスの演技染みた言葉に、リリアは無心のまま小さく頷き、城門前の中庭を一望できるバルコニーに立つ。

 城門前では、既に多くの民衆が大歓声で新たな女王を迎えていた。

「女王陛下」

「分かっています」

 小声で一度ずつ言葉が交わされる。

 リリアは一度大きく息を吸うと、強くも優しい笑顔で小さく手を振って周囲の期待の声に応えた。

 民衆の盛り上がりは最高潮に達した。


「王国の民達よ!」

 女王の精一杯の呼び掛けに、周囲の声が一瞬で止む。

「私の名はリリス・ウィンフォス! 私はこの日より祖国の御加護の下、ウィンフォス王国第十二代目の王となり、皆を導く者となりました」

 一言一言に力を籠め、王国中に声を響かせるつもりで喉を震わせる。

「王の冠は頭に、王の責務を心に、皆が愛した先王、亡き父に代わり、この王国を皆と共に手を取り合い、協調と慈愛の名をもってより良き未来へと歩んでいく事を、ここに誓います!」

 民衆の声が、再び歓声の音に溢れた。


 しかし、とリリアが続ける。

「カデリア王国との戦いにより、多くのものが失われました。多くの家族や愛する者、友人達を失ってしまいました。家を失い、親を失い、職を失い、明日の食べ物にすら困る者達も多い事でしょう………私も愛する父を失い、皆と同じ気持ちです」

 周囲にすすり泣く声が混ざり始める。リリア自身も共感しそうになるが、唇を噛み、一心に耐えて口を開き続けた。

「ウィンフォス王国は、誰もが平和に暮らせる国をつくってきました。先王である父は、これ以上の犠牲を増やすまいとカデリア王国との停戦に自ら赴きましたが、卑劣にも彼等は父が差し伸べた手に剣を突き立て、愛する我が民の家族や大切な者達を悉く奪ったのです!」

 リリアが手を伸ばし、地平線に沿って左から右へとなぞる。

 そして拳を握る。

「これを許していいのでしょうか! それでもなお、私達は耐えなければならないのでしょうか!? 否っ! 答えは断じて否なのです!」

 語気が強まっていく。

「女王の名において、皆の前で最初に発する言葉はただ1つ。カデリア王国に対して宣戦を布告し、その報いと責任を取らせる事です! 皆も苦しい立場である事は、重々承知していますが、私達はこの戦いを乗り越えなければ、未来を掴む事ができません!」

 民達が女王の顔を見つめ、一人一人がその声に耳を傾けていた。

「女王陛下!」

 一人の若者が声を上げる。

「女王陛下! 私の兄は先の戦いでカデリア王国の兵に殺されました! 私にも戦う機会をお与えください!」

 別の方向では中年の女性が感化されたのか、それに続く。

「私も最愛の息子を失いました! 私は武器を取って戦う事はできませんが、せめて陛下と心は共にありたいと思います!」

 声が次第に大きくなっていく。誰もが自分の境遇を訴え、共感し、女王陛下と拳を上げて声をそろえ始めた。


 最大の成果を、リリアとロデリウスが静かに見降ろし続ける。

「………お見事です。陛下」

 隣で立つロデリウスが小さく頭を下げる。

「これで私は、地獄行きの書簡に署名した事になりますね」

 国民に向かって、決意に固めた表情で手を振りつつも、リリアが発している言葉は真逆の意味だった。

 理由はどうあれ民を扇動し、戦争への道を歩ませる事となった。

 最初に声を上げた数人の者達が、ロデリウスによって用意された『事実の役者』である事に、誰も気が付かない。


「御心配なく。地獄では先に陛下をお待ちし、ずる賢い悪鬼共を懐柔させておきましょう」

「死してなお国家への忠誠を尽くす、か。まったく、貴方には叶いませんね」

 王女は笑顔を作りながら手を振り続け、民達の声に応え続けた。

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