⑩寄せ集めの軍だからこそ
女性特有の花のような甘い匂いと、彼女達の柔らかく細い毛と無造作に触られる肉球にまた刺激され、相田の身と心が再び限界を迎える。
「ふ………ふひっ! うがぁぁぁぁぁぁ!」
両手を上げ、彼女達を遠ざける様に回転する。
これ以上は理性が保てない。鼻の穴が無意識に大きくなるのを懸命に抑えつつ、相田は両手を上げて大声を張り上げた。
「こっ、コルティぃぃっぃぃ!」
「は、はひっぃぃ! ふぎゃっ!」
コルティの頭の上に、再び丸められた紙が舞い戻る。
「フライング、ゲットォォォォォ!」
相田の言葉の意味が理解できず、コルティの頭の上で『?』が浮いていた。
だが、彼女達の断片的な単語から大体の事情を理解した相田は、さすがに彼女に言うべき事を言わなければならなくなった。
「コルティ! お前、喋ったのか!?」
「えっ!? 他の部族には既にお話を付けられたのでは………」
小鬼族、猪亜人族、蜥蜴亜人族、有翼人族等といった名だたる種族達と交渉し、編成される魔王軍に混ぜてもらおうと、猫亜人族も少数ながら駆けつけたと彼女が必死に説明する。
「私達は一足先に、御主人様の気持ちを手に入れようかと………ふぎゃぁ!」
「それがフライング、ゲットォォォォォ! なのだっ!」
コルティを擁護した黒猫の頭頂部にも、丸めた紙が降り落ちる。
「魔王様のお話を聞き、心がビビっと感じたんで………ふぎゃぁ!」
「フライング、ゲットォォォ!」
トラ模様の猫の頭の上にも容赦なく丸めた紙の怒りが落ちる。
「いいか、お前等?」
相田は息を切らしながら、丸めた紙で自分の肩を叩くと、順々に話を切り出した。
「集合の約束は明日の朝だ………しかもここじゃない」
「そ、それは承知しております。ですが………」
コルティがもう一度理由を話そうとしたが、相田が丸めた紙を彼女の頭の上に持ってくると、流石に体を強張らせる。
しかし、丸めた紙は彼女の頭の上に優しく乗せられただけだった。
自分を中心に囲みつつも、不安そうな表情で見つめて来る猫亜人達を相田が一瞥する。
「コルティや君達の気持ちや献身は素直に嬉しいし、有難い。特にコルティは、今までずっと情けない俺に尽くしてくれた。君達は君達で、今まで生活していたものを捨ててまで、ここに来てくれたんだ………感謝の言葉もない」
相田は一人、一人の顔を見ながら頷き、話を続ける。
「だが、魔王軍ができても種族間の信頼が即座に築かれる訳じゃない。中には少しでも魔王軍の中の地位を得よう、俺の気を引こうと動く連中がいても可笑しくはない」
我先にと様々な種族達が押し寄せれば、その時点で互いに疑心や不要な競争心を生む事になる。だからこそ相田は集合時間を厳守させたかったと説明した。




