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Lost12 優しき青年は、冷酷な魔の王になれるのか  作者: JHST
第八章 最後の一週間、人として
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⑩寄せ集めの軍だからこそ

 女性特有の花のような甘い匂いと、彼女達の柔らかく細い毛と無造作に触られる肉球にまた刺激され、相田の身と心が再び限界を迎える。

「ふ………ふひっ! うがぁぁぁぁぁぁ!」

 両手を上げ、彼女達を遠ざける様に回転する。

 これ以上は理性が保てない。鼻の穴が無意識に大きくなるのを懸命に抑えつつ、相田は両手を上げて大声を張り上げた。

「こっ、コルティぃぃっぃぃ!」

「は、はひっぃぃ! ふぎゃっ!」

 コルティの頭の上に、再び丸められた紙が舞い戻る。

「フライング、ゲットォォォォォ!」

 相田の言葉の意味が理解できず、コルティの頭の上で『?』が浮いていた。

 だが、彼女達の断片的な単語から大体の事情を理解した相田は、さすがに彼女に言うべき事を言わなければならなくなった。


「コルティ! お前、喋ったのか!?」

「えっ!? 他の部族には既にお話を付けられたのでは………」

 小鬼(ゴブリン)族、猪亜人(オーク)族、蜥蜴亜人(リザード)族、有翼人(バード)族等といった名だたる種族達と交渉し、編成される魔王軍に混ぜてもらおうと、猫亜人(バステト)族も少数ながら駆けつけたと彼女が必死に説明する。

「私達は一足先に、御主人様の気持ちを手に入れようかと………ふぎゃぁ!」

「それがフライング、ゲットォォォォォ! なのだっ!」

 コルティを擁護した黒猫の頭頂部にも、丸めた紙が降り落ちる。

「魔王様のお話を聞き、心がビビっと感じたんで………ふぎゃぁ!」

「フライング、ゲットォォォ!」

 トラ模様の猫の頭の上にも容赦なく丸めた紙の怒りが落ちる。


「いいか、お前等?」

 相田は息を切らしながら、丸めた紙で自分の肩を叩くと、順々に話を切り出した。

「集合の約束は明日の朝だ………しかもここじゃない」

「そ、それは承知しております。ですが………」

 コルティがもう一度理由を話そうとしたが、相田が丸めた紙を彼女の頭の上に持ってくると、流石に体を強張らせる。

 しかし、丸めた紙は彼女の頭の上に優しく乗せられただけだった。


 自分を中心に囲みつつも、不安そうな表情で見つめて来る猫亜人バステト達を相田が一瞥する。

「コルティや君達の気持ちや献身は素直に嬉しいし、有難い。特にコルティは、今までずっと情けない俺に尽くしてくれた。君達は君達で、今まで生活していたものを捨ててまで、ここに来てくれたんだ………感謝の言葉もない」

 相田は一人、一人の顔を見ながら頷き、話を続ける。

「だが、魔王軍ができても種族間の信頼が即座に築かれる訳じゃない。中には少しでも魔王軍の中の地位を得よう、俺の気を引こうと動く連中がいても可笑しくはない」

 我先にと様々な種族達が押し寄せれば、その時点で互いに疑心や不要な競争心を生む事になる。だからこそ相田は集合時間を厳守させたかったと説明した。

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