⑥謁見の間にて
アイダは金の刺繍が入った赤い絨毯の上に正座をさせられていた。
両腕は相変わらず後ろに縛られている。初めは胡坐でもかいてやろうと抵抗していたが、立派な服を着ている大人達に何度も注意され、その度に時間が無駄に使われたので渋々と諦めた。
結局、風呂は却下されたあげく、縛られたまま下着姿にされ、挙句の果てに筋骨隆々の男達に押さえられながら、石鹸と濡れたタオルで適当に体中を拭かれただけだった。
それだけだった。他は何もされなかった。本当に何もされていない。アイダは心の中で何度も自分に言い聞かせ、鼻をすする。
涙目になりながら、アイダは周囲を見渡す。
こういう広間の事を謁見の間というのであろうか。入口の扉から二つの玉座に続く金の刺繍が施された真紅の絨毯、壁や柱は純白の大理石、等間隔に設置された照明も金銀細工の魔導ランプ、無駄に広い空間の左右には外見からも役職の高そうな武官、文官、兵士、魔法使いが列をなし、時折絨毯の上に座らされた哀れな男を見ながら、何やら雑談を交わしている。
当のロデリウスは玉座に近い位置に静かに立っていた。
「ウィンフォス王国グランバル国王陛下、リリア王女殿下の御出座である!」
玉座の横にあるカーテンの傍で衛兵が高い声を響かせる。その声に合わせ、先程まで雑談していた者達は全員口を閉じ、そして軽く頭を下げた。
口を尖らせ、アイダはカーテンから出てくる人影を睨みつける。ロデリウスは頭を下げつつアイダを覗いていたが、頭を下げないアイダを注意する事なく、すぐに視線を戻す。
玉座の前に立った人物は年の離れた一組の男女だった。
側頭部の白髪が目立つ短い黒髪の男は、年齢は四十近く。長身、細身ながらもしっかりとした体格、白をベースとした高貴な服と、赤い裏地の毛深い外套を纏っている。
もう一人は、二十前後の女性。
女性にしてはやや背が高く、銀の長髪と丸い眼鏡が特徴的であった。男と同じように白をベースとした高貴なドレスと首周りに目立ち過ぎない程度の装飾品を身に付けている。
感情を出さない二人の鋭い目に、アイダも負けじと睨み返す。
そして二人が玉座に座ると、他の者達が一斉に頭を上げる。
「ロデリウス。この者が魔女の家の主か?」
王と呼ばれた男は早速ロデリウスに尋ねると、彼は一歩前に出て王に向かって頭を下げた。
「はい、陛下。彼自身もそれを認めております」
言い終えて姿勢を戻す。
「ふむ………」
次に王はアイダの眼を見た。
王と呼ばれるだけあり、その眼光は目から神経を伝わって体の奥まで覗かれ、見透かされるようにアイダを襲う。
一睨みで、アイダは王が一回り大きくなったように見えた。




