①再びあの場所へ
戴冠式まで残り半分となった一週間。
「………懐かしいな。あれからそんなに経っていないはずなんだが」
蛮族達の交渉も一段落し、相田は魔女の森の一角に存在する大きな円形の広場に立っていた。
正面には焦げて薙ぎ払れた木々がそのままになっており、広場の中央には相変わらず光を寄せ付けない漆黒の石碑が立っている。
「ここが………相田さんが初めて戦った場所ですか?」
「ああ。思い出しても恥ずかしい話しかない」
連れてきたカレンの問いに、相田は指で頬をいじる。
相田の脳裏に初陣の記憶が蘇っていく。
蛮族に誘拐されたアリアスの村人達を救出するべく、デニス達、第十騎士団と共に、魔女の森にある廃城を目指していた。当時は自分の力すら分からず、リール達の行方を探そうとしていた中で起きた初陣。相手の命を奪うという初めての経験に失神寸前だったと、相田は自嘲気味に笑った。
デニス達の国葬後、カレンは父親という最後の家族を失い、毎日を茫然自失と過ごしていた。
昼間は涙こそ見せず、懸命に家事へと勤しんでいたが、夜になると眠れない日が続き、時折涙が溢れ、酷い時にはコルティの部屋で一緒に寝ていた事も幾度とあった。
それからというもの、相田は彼女を一人にさせないようにとリールに事情を話し、相田とフォーネ、コルティらと共に、アルトの宿の世話になっている。
そして一週間が経ち、言葉と笑顔が増えてきたカレンの様子を見計らい、相田はガーネットにカレンとフォーネを乗せて外に出る事を決めた。
珍しくコルティは留守番を自ら望み、その間のみ暇を貰うと願い出ており、ここにいない。
「フォーネもね! ししょーとはこの森の中で出会ったんだよ!?」
「まぁ………場所は違うが」
フォーネも久々の遠出に興奮を隠しきれず、二人の会話に参加しようと無邪気に両手を伸ばす。
「いやぁ、あの時は散々でさぁ。隊長やシリアさんには怒られるわ、テヌールさんには騙されるわと………だけど、結局何だかんだと守られてばかりだったなぁ」
ここでオークとゴブリンの群れに襲われたことを話し出す。敵に包囲されでも、隊長達が冷静に対処し、敵を斬っては投げ、千切っては投げ、と大げさに体を使ってカレンに説明した。
少しだけだがカレンが笑みを見せている。
「ゴブリンを数匹倒すので精一杯だった」
朽ちた短剣が足元に落ちていた事に気付いた相田は、それを手に取り、遠くにあった木に向かって軽く投げ放つ。
短剣は乱れた軌道で回転しながら木に当たり、根元に落ちる。
「力を使わなければ、まだまだこの程度なのにな」
相田は中央の石碑に触れながら一周する。若干鼻声になっていたが、鼻を擦って誤魔化す。
彼女を立ち直らせるつもりが、自分もまた戦友達の事を深く思い出しすぎていた。




