③歴史が変わる日
「そして相田。あなたには正式に魔王として振る舞ってもらいます」
相田もまたリリアに救われた一人だった。
ロデリウスと共に帰還した騎士から、第十騎士団に所属するテヌールがクレアに敗北したと聞かされ、相田は戦友と呼べる仲間をこの戦いで全て失った。それを聞きつけたリリアは、多忙な中、相田に声をかけに来たのである。
彼女も父親の死と、王族としての義務で一番辛いはずなのだが、声をかけてくれた。その理由が『友人だから』という言葉もまた、亀裂の入っていた相田の心を強く打った。
「分かっている………ウィンフォスにも英雄は必要だからな」
勇者に対抗する存在がこの国にも必要だという事は、グランバル王が相田を『魔王』と呼んだ時点で薄々感じ取っていた。相田も悩む時期は最早過ぎたと、自分の拳を胸の前で音を立てて握りしめる。
「まだまだ実感はないが、やれる所までやってみるさ。そして、必ず勇者達をぶっ倒す」
二人の返事に、リリアは深く頭を下げた。
「ありがとうございます。これから私達が進む道は間違いなく地獄の道でしょう。後世の歴史家が真実を知れば、さぞかし公にするか迷う程に。ですが私は後世の評価よりも、王国が存続する道を優先させたいと思います」
そしてゆくゆくは自分が地獄に落ちると明言する。
「望む所です。真実を知った後世の歴史家も一緒に落ちる位の地獄を築いてやりましょう」
「俺も魔王になるんだ。地獄に居城を構えた方が様になっていいんじゃないか? 是非、三人で地獄の鬼共を踏みつけてやろうじゃないか」
ロデリウスも相田も、彼女の言葉に乗りかかった。
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国葬が終わった翌日。
玉座に座る者がいない中、朝の御前会議の時間となった。
だが主君たる王を失い、数多くの将兵を失った王国の未来に光はなく、重い。対面するように立っていた文官、武官らも多くが鬼籍に入り、生き残った者の多くも体調不良を理由に欠席していた。
そして、参加できていた者達の表情にも覇気はない。中には自分以外の家族、親類が全員死亡している者もおり、この場に立っているだけでも凄まじい事であった。
「………ロデリウス殿は、まだお見えになっていないのか?」
文官の一人が勇気を振り絞って声を出し、周囲と共に辺りを見回したが、彼の姿がどこにも見えない。ロデリウスは未だに重傷の身だが、それでも毎日の朝議には必ず出席し、周囲に指示を与えてくれる数少ない頼るべき一人であった。
彼がいないと誰も会議を進める者がいないとまで主張する者まで出始める。
「それに王女殿下も御出座されておらぬ」
「陛下が崩御されて間もない。王女とはいえ、まだあの年齢では………仕方あるまい」
多くの人間が首を左右に振って溜息をつく中、扉の衛兵が王女の入来を告げた。
玉座の前の家臣らは若干騒めいたが、彼女の姿が見える頃には全員が玉座に体を向け、頭を下げていた。




