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Lost12 優しき青年は、冷酷な魔の王になれるのか  作者: JHST
第三部最終章 運命の日
317/599

①迎える朝

 日が出ても、空気が温まるまで時間がかかるようになっていた。口から出る息は白みがかり、頭の上を過ぎても白い粒が霧散していく様子が見える。

 ウィンフォス王国は、一年を四節に分けている。

 野菜や果物といった多くの植物が育つ『育ちの節』、それらを収穫する『収穫の節』、最も寒い『厳寒の節』、そして植物が再び活動を始める『芽吹きの節』。元の世界でいう春夏秋冬に近い為、相田にとっては非常に分かりやすかった。

 そして今は『収穫の節』の中旬だという。この時期になると、既に作物の収穫は殆ど終わり、『厳寒の節』の仕事に備えて乾物やワイン、チーズ等の加工品に必要な材料の確保に勤しんでいる。ウィンフォス王国の加工品が名産とされる所以は、この厳しい冬に備えた技術が他国と比べて抜きんでているからと言われる。

 

「今年は厳しい冬になると、予報士達は言っていたそうだ」

「そうなると、この時期での停戦はギリギリですね」

 馬車馬の手綱を持つシリアが、デニスの言葉を返す。

 空気中に存在するクレーテルの流れを読み、季節や天気を観測する者達を『予報士』と呼ぶ。デニスは朝早く迎えに来たシリアの馬車の中で、他愛もない言葉を交わしながら相田達と王城を目指していた。


「この国では雪が降るんですか?」

 相田が日本の冬を思い出す。

「そうだな。王都に雪が降る事は間々あるが、積もる程まで降るのは三年、四年に一度あるかといった位だな」

 雪を見ながらの酒がまた旨いと、デニスは口の前で指を傾け、飲む仕草を見せる。

「昨日あれだけ飲んだのに、まだ足りないんですか?」

 結局コルティ達にお酌をされ続け、デニスは夕飯が終わると同時にリビングのソファーに沈んでいた。


「あ、隊長。例のお酒、飲んでくれたんですか?」

 シリアが横目で笑っている。

「え、あれはシリアさんのお酒だったんですか? いやぁ、御馳走様でした」

 相田が美味しかったと感想を伝えた。

「あれは、私が選んだ酒でね。隊長が相田と飲みたいからと、一緒に―――」「うおっほん!」

 デニスが大きく咳払いをして彼女の声を邪魔する。シリアは『はいはい』と苦笑して顔を前に戻し、運転に集中し直す。


 

 十数分かけ、相田達が王城の前に到着する。

「さぁ、着いたよ」

 シリアの声に全員が馬車から降りる。コルティとフォーネは、荷台から荷物を取り出すと、それを互いの背負子に重ね始めた。

「俺………三日分って言ってたよな? 最低限?」

 相田は二人の背中に積まれた二個ずつの木箱に言葉を失った。


「相田」

 ショルダーバックを肩から下げていた相田は、馬車から降りるとシリアに呼び止められる。

 そして、彼女が腰のポシェットから一本のナイフを取り出した。

「必ず無事に帰ってきな。こいつは、そのお守りさ」

 さらにポシェットからナイフ入れの革紐を取り出し、相田を振り返らせて左肩から回す。

「あんたに作ってもらったナイフ。大切に使わせてもらうよ」

 抱き合うように近い距離。相田は顔を赤くしつつも動く事ができず、心臓の鼓動を数えながら彼女が革紐を結び終えるのを待ち続けた。

「シリアさんも………隊長をお願いします」

「………馬鹿だね、こっちの心配してる場合じゃないだろうに。大丈夫。あの人は、もう十分強いのさ」

 シリアもまた顔を赤くしていた。彼女は結んだ革紐の穴にナイフを一本通すと、相田の背中を景気よく叩き、行って来いと檄を飛ばす。


「行ってきます。ザイアスにもよろしく言っておいてください」

「そういうのは、自分で言うもんさ! 私の後ろも見てやりな」

 相田が視線をずらすと、シリアの後ろ奥、大きな街樹の影でバンダナを巻いたポーンが、包帯だらけのザイアスを支えながら立っていた。

 相田が深々と頭を下げる。

 それを見たポーンが顔の横で親指を立てる。ザイアスも傷だらけの左手を上げながら大きく口を開け、白い歯を見せて下品に笑っていた。

 全ての会話が言葉なしでも伝わったかのように心の中が温かくなる。相田は戦友達に感謝した。

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