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Lost12 優しき青年は、冷酷な魔の王になれるのか  作者: JHST
第十一章 蛇の影は見えているか
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③酌み交わす酒と肴

『ご主人様、荷物は本当に三日分だけでよろしいのですか?』

 リビングにいるコルティとフォーネがそれぞれの革鞄に荷物を詰めている。

「あぁ。基本的には、食料やら医薬品は騎士団(向こう)が準備するから、こっちは精々着替え位なもんだろう」

 相田の荷物は既に旅行用のショルダーバッグに荷物を詰め終えている。この時代の鞄は布か動物の皮を鞣したものが主流で、布は大きく加工できるが強度と水に弱く、動物の革は布より強度に勝るも、値段が張り、扱いも難しい。化学繊維の存在がいかに世界を変えたのかと考えさせられる。

 彼女達は、軽い荷物を小さな革鞄に、かさばる物や重い物は抱えられる程度の木箱に荷物を詰めている。運搬の殆どは馬車に乗せてしまえば解決するが、それまでは江戸時代や高山に住む人達のように背負子と呼ばれる荷物を掛ける梯子を背負って運ぶ事になる。

 コルティは、着替え以外にもカレンに用意してもらった医薬品や乾物等の非常食を、丁寧に一つずつ確認しながら籠に詰めていた。


『何が起きるか分かりません。荷を失った事を考え、最低限の予備は持っていった方が良いと思います』

「そうだな。その辺は任せるよ………あ、フォーネ、その漫画は置いていくからな」

 そんな事だろうとリビングで見張っていた相田が、フォーネが密かに入れようとしていた漫画本を発見するや、即没収する。

「わーん! ししょーはケチです!」

「駄目なものは駄目だ! あー、そんな顔をしても無駄だからな。そもそも、こいつを失くしたらもう二度と読めないんだぞ? え、暇つぶし? 馬鹿垂れ。旅行じゃないんだ、そんな暇なんかあるか!」

 漫画の背表紙でフォーネの頭を叩く。フォーネは頭を押さえながら口を尖らせ、ぶつぶつと小言を言いながら自分の着替えを籠に入れ始めた。

「まったく………遊びじゃないんだから」 

 腕を組み、改めてソファーに腰を降ろす。


「お前の方こそ、今からそう気を張っていると、体がもたないぞ?」

 デニスが酒瓶と二人分のグラスを持って、相田の後ろに現れた。

 そして酒瓶の底で相田の後頭部を小突く。

「あ痛ぁって、た、隊長っ!? もう、仕事が終わったんですか?」

 帰った気配に全く気が付かなかった。相田が立ち上がり、慌てて屋敷の主人を出迎える。

 準備の為の休暇を貰った相田と異なり、デニス達は通常の業務を進めていたはずである。時間はまだ夕方前。仕事を終えて戻って来るにしては早い帰宅であった。

「まぁ、うちの馬鹿息子の様子くらい見てやらないとな」

「馬鹿って………そりゃぁ、ないですよ」

 相田は目の前に降りてきたグラスを受け取ると、デニスに誘われて何もない食卓へと案内される。

 それを見たコルティが立ち上がったが、デニスは右手を前にして彼女を動きを制止させた。

「いやいや、お嬢ちゃん達は明日の準備に励んでくれ。こっちはこっちでやっておく」

 相田を先に座らせ、通り過ぎ様にテーブルにワインを置いたデニスはそのまま台所へと向かい、適当な肴を漁り始めた。


「確かこの辺にだな………お、あったあった。こいつだ………って、いてっ」

 起き上がりごしに、棚の戸に頭を打つ鈍い音が聞こえてくる。

「こいつぁ、その酒によく合うんだ」

 デニスが紐に結ばれた赤みの強い魚肉の燻製を取り出すと、それを適度な厚みで切り分け、軽く炙り始めた。


 しばらくして丸皿の上に、程よく温められた燻製の切り身が不規則に置かれた状態で用意される。

「どうだ、準備の方は………とは言っても、自分達でできる事はそうないな」

 デニスが互いのグラスに透明な酒を注ぐ。

「はい。往復で八日間の行程だそうです。出発は明朝で………お、本当だ。この肴、旨いっすね」

 軽く炙った燻製は奥歯で噛む程味が濃くなり、口の中を一周してから喉へと落ちていく。酒は麦焼酎のような味と香りに似ており、喉を通る度に鼻から強いアルコールが抜けていく。相田は酒と肴との組み合わせを評する程飲み慣れてはいないが、どちらも確かに美味かった。

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