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Lost12 優しき青年は、冷酷な魔の王になれるのか  作者: JHST
第三章 しかして青年に試練を与え給う
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⑥奇跡の出どころ

 奇跡は起きなかった。

 世の中とは、そううまくできていなかった。


 もう自分には何もできない。

 アイダは悔しさと情けなさが作り出す涙で地面を濡らし、泣き叫ぶリールを見上げるしか出来なかった。


「ショーゴぉぉ! もう、いやあああああぁぁあ!」

 リールはアイダに近付こうと必死に手を伸ばし、両足を揺らしながらさらに暴れだす。

「がっ!」

 偶然にも彼女を掴んでいた兵士の兜の隙間に彼女の指が入り、兵士の目が爪で傷付けられた。

 リールを掴んでいた手が開かれる。

「ショーゴ!」

 相田の下へと駆け寄ろうとした。


『冗談じゃねぇぞ! おいっ!』


「ああ、あぁ。ごふほぉ!」

 思った単語が声に出ない。

 震える右手をリールに向け、何とか伝えようとするが、アイダの口からは息がひゅうひゅうと漏れるだけだった。

 目を傷付けられた男は怒りに任せ、リールの後ろから剣を振り下ろそうと腕を高く構えていた。


『止めてくれ! その腕を下ろさないでくれぇっ!』


 アイダは無我夢中で、全身に残った力をかき集め、真っ赤になった口で歯を食い縛り、震える右手を伸ばす。

 最後の力を振り絞り、振り上げた兵士の腕と、自分の掌を直線状に合わせる。

「ショーゴぉぉっ!」

 リールは気付いていなかった。


『俺にもっと力があれば! お前らなんか―――』

 兵士の腕が振り下ろされる。


『―――ぶっっ殺してやる!』


 はずだった。

「ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 リールの断末魔の声とは異なり、聞こえたのは男の声。


 現実とは、理不尽という革袋の中に包まれている。

 だが時折、革袋の中に奇跡を入れる者がいるらしい。それとも、元々中に残っていたのか分からない。


 だが、奇跡は確かに起きた。

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