③抗う力を
「………気を失いました」
王の傍にいた金髪の男が、手を近付けて青年の呼吸を確認すると、溜息の後に王へと報告する。詠唱を止めた八人の魔法使い達も、危なかったと汗を拭い、ある者は疲れ果ててその場に座り込み、息を切らしていた。
「衛兵。この者を牢に入れよ。必要であれば手当てもしてやれ」
王が近くにいた衛兵に視線を向けて命令する。命を受けた二人の衛兵が短い返事と共に、青年の両肩を掴んで挟み込むようにして持ち上げると、謁見の間から早々に去っていった。
「陛下、お気を付け下さい。いつ、彼の力が目覚めるとも分かりません」
金髪の男は、自分でも驚く程に汗をかいていた。謁見の間にいた魔法使い達は、王国内でもかなりの力を有する者達である。先程放った魔法は、大の男を失神させる程の重圧を相手にかける束縛系の魔法であった。
しかし、青年はその八人分の魔法に耐えていた。普通なら床と一体化し、肉と血を巻き散らかしてもおかしくない威力に匹敵していた。
金髪の男は、何故彼が『魔女の森』と呼ばれる特殊な森で身を隠していたのか、その理由が少し理解できた気がした。
「………面白くなってきたな。ロデリウス」
そう言って王は肩を震わせて小さく笑うと、最後まで席を立つ事のなかった王女と共に奥の扉へと戻っていった。
青年は何故、王に抗ったのか。
―――時は一週間程、遡る。