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③護衛は王国最強の騎士

「………ま、まさか」

 相田は立ち上がり、自分が呼ばれた理由を察した。

「余の護衛として相田を連れていく。この者が操る竜に乗れば、かなりの日数を節約できよう」

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 王の言葉を遮る。相田は他の三人を窺うが、各々が三者三様で不安な表情を示しているが、驚く事なく、反論すら語ろうとしなかった。

「どうした相田? あぁ、そうか………貴様は余の事を大層恨んでいるのであったな」

 相田を異世界人と見極める為にアリアスの村、その村人達を危険な目に合わせた。さらにリール達家族を人質にして相田を手元へと置き、利用してきた。その際、相田は王に『人として間違っている』と家臣達の前で啖呵を切り、殴りかからんばかりの表情で怒鳴っている。

 相田が王を恨んでいる事は、家臣達にとって周知の事であった。

 それは事実だが、相田は今口にしようとしていた言葉とは異なる。表情に悩みつつも、相田は震えかけた口を開いた。

「それはまぁ………そうですが。論点はそこではなくですね………何というか」

 感情が言葉に出ない。


 あれから半年。

 相田は自分の気持ちに悩んでいた。


 アリアスの村が蛮族に襲われ、宿を失ったリール達は王都への移住を余儀なくされた。だが与えられた場所は王都の一等地、ロデリウスの支援により情報収集の場も兼ねてはいるが、立派な宿が提供されている。さらに、彼女達の生活に支障が出る程の制限はかけられていない。

 相田自身に至ってもそうだった。

 今では話さえ通せば、王都の外へ出る事ができる。他の者と同様に十分な給金も支払われ、住む場所にも食事にも困っていない。戦友に恵まれ、戦争と人殺しの狂気の渦中にいても、何とか自分を保っていられていた。

 その上で、相田は改めて自分の感情と向き合う。


―――自分は今でも王を恨んでいるのだろうか。


 相田はあの時の感情を今でも思い出せる。忘れる事は出来ない。だが、王の前でその時の表情を作る事はできなくなっていた。

 それが全ての答えであった。

 もっと目の前の王が悪政を敷き、民を飢えらせ、私利私欲で保身に走る暗愚な存在であれば話は簡単だったろう。相田は一瞬でもそう思ってしまった考えを振り消し、王に向けた顔を反らす。


「隊長………その、よろしいのですか?」

 立ったままの相田は、思わずデニスに助言を求めていた。

 その隊長も表情に困っている。

「良いも悪いもない。陛下がそうお決めになったのであれば私見はともかく………従う他あるまい」

 不安は残るも、テーブルに視線を落としたまま、それ以上口にする事はなかった。

 ロデリウスの表情も概ね似たようなものであった。相田は彼を一瞥するだけで返事を悟り、静かに腰を落ろす。

 最後に相田は、娘であるリリアに顔を向けた。

「相田。お父様を………陛下をよろしくお願いします」

 目が合うなり、彼女は心配な表情のまま相田に全てを託す。

 どうやら拒否権も他の選択肢もないらしい。相田は大きく息を吸い込むと、鼻から全ての空気を捨てきった。

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