③誰が勇者の相手をするか
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「もし、敵がここにきたらどうする?」
シリアは持っていた黒い石を王都が描かれている地図の東門の上に置いた。
地図の乗った年期の入ったテーブルを挟んで座る相田は、顎に手を当てて唸り、剣の模様と弓が描かれている白い石をそれぞれ東門の周辺と城壁の上に展開させる。
「門に集まった敵を城壁の上から攻撃し、門が突破された時のために、大通りと左右の建物を利用して半円状の橋頭保を築いておきます」
相手の人数にもよるが、それしかない。王都の中で展開されると、手が付けられなくなる。
そこにシリアは南の大正門に大きめの黒い石を転がしてきた。
「さぁ、どうする?」
シリアが椅子の上で膝を立てながら、相田の顔を見て頬を緩める。
兵舎に戻った相田達は、王都周辺の地図をシリアと睨み合い、敵の攻め方、そしてその対応について共に思案を巡らせていた。
始めこそザイアスやフォーネも地図を囲んで何度も頷いていたが、今では二人とも飽き、腕相撲や力自慢の筋トレを部屋の隅で始めている。
「カレンさん、芋の皮むきが終わりまシタ」
「ありがとう、コルティ。それじゃぁ、次はお鍋でお湯を沸かしてください」
台所から野菜を小刻みに切る音や、水が元気良く沸騰している音が聞こえてくる。
デニスの娘であるカレンも、今日からしばらく相田達と共にこの兵舎に泊まることになり、コルティと共に狭い台所で夕飯の支度を始めている。
相田はシリアの置いた勇者一行を示す黒い石に視線を戻した。
「勇者達だけで南の大正門を突破ですか? まぁ、彼らなら壊してくる事も十分ありえますが………」
手の中に残っている石を器用に転がしながら相田が次の一手を考える。今握っている石は、王国騎士団の訓練兵や兵役経験者の民兵の残り半分、そして相田自身とフォーネ、コルティとガーネットを現す両極端な石しかない。
相田とシリアは最悪の事態として、前回の戦いで敗走していった千に満たない敵の残存部隊と勇者一行が両方攻めてきた場合を想定している。
出発した騎士団が帰還に間に合えば話は変わるが、そうでない場合は彼らが戻ってくる間、残された兵力で戦線を維持させる必要に迫られる。王国騎士団の殆どが出払っている中、近衛兵を除いた訓練兵や予備役兵を指揮する人物はシリアとザイアスしかいない。
その場合、相田達は自然と単独行動か、フォーネ達と少集団としてまとまって動く事になる。
相田は止む無く、大正門前に相田達を現す白い石をいくつも置く。
「全部使うか………まぁ、仕方ないか。だけどそれだと、西門ががら空きになってしまうね」
「はい。ですが、ここまで来ると、全ての門を守る事は現実的ではありません。これ以外となると、あとは俺一人で勇者達と戦い、フォーネとコルティ達を西門に向かわせるしか策がありません」
コルティやフォーネだけでは、戦う事はできても他の部隊との連携や連絡は不可能。ましてや住民の避難や誘導など出来るはずもない。そしてそれは、南門で戦う相田にも同じ事が言えた。
結局の所、どんなに秀でた者がいても、それが少数である限り、大軍相手では戦略上意味を成さない。相田は手持ちの石と王都の広さを比べ、戦いは数だという事を思い知らされる。
「そうだ。骸骨の軍団をもう一度呼び出して、南の大正門前に待機させたらどうだい?」
千を越える骸骨軍団を呼び寄せれば、状況は随分変わるだろうと、シリアは思い出したように提案した。
だが相田は首を左右に振る。
「すみません。あれは、剣の力を利用して周囲の怨霊や怨念を集め、俺の能力で実体化させる合わせ技なんです。ですから俺自身が近くにいないと、彼らの実体化を維持する事ができません」
相田はそれ以上詳しく話さなかったが、力を使役すると怨念の濃度は薄まり、弱体化することを相田は剣の声から聞いていた。
「つまり、昨日のような軍団規模の援軍は期待できないという訳か」
「そうです………すいません」
相田が申し訳なさそうに頷くが、その声の意味に気付いたシリアは、『特に気にしていない』と表情を和らげ、相田に向かって片手を振った。
「と、なるとやっぱり後は勇者一行の能力次第、か」
結局、そこに行きつく。




