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④メイド服と三日月斧

――――――――――


 相田は自分の部屋で目を覚ました。

 寝足りないまぶたの重さから、相田は机の引き出しを漁り、中に隠していた腕時計を掴むと時間を確認する。


―――午前二時。


 普段の起床よりも三時間も早い。久々の酒のせいか、相田は中途半端な時間に反応してしまったとシーツを頭に被せて低い声で唸る。

「仕方ない………もう一度寝るか」

 相田はシーツから頭を生やすと、大きな息を吐きながら腕時計を戻し、瞼の上に腕を置いた。

「………風?」

 大きく息を吐き終えた時、相田の耳に風を切る音が入る。

「いや、違うな」

 窓は開いていない。

 だが、短い風が何度も繰り返し聞こえてくる。音が止まったかと思うと、等間隔で再び聞こえてきた。

 明らかに人為的な音である。

「………………うーむ」

 気になって仕方がなかった。

 相田は疲れが残る体を無理矢理起こし、部屋を出る。


「リビング………では、ないか」

 一番広い部屋に足を運ぶが、フォーネの可愛いいびきとザイアスの醜い歯ぎしりが交互に聞こえてくるだけで、相田が探していた音の正体はここにはなかった。

 それでも音はまだ聞こえてくる。

「庭か?」

 音の方向を確認できた相田は、戦友達を踏まないよう忍び足で進み、リビングのガラス戸を開けた。


『………ご主人様?』

 相田が顔を出すと、そこにはメイド服のコルティが立っていた。

 彼女の手には使い古された長い柄のついた斧が握られている。相田は斧の先端からコルティの姿を経由して地面に触れている柄まで視線を移動させた。

「えぇ………何してるの?」

 こんな夜中にと、相田は半ば呆れながらもメイドと斧という謎の組み合わせに目を細める。

『申し訳ありません………実はその………日課、でして』

「日課」

 返しに困った。

 

 コルティは『何か飲まれますか』と慌てて聞いてきたが、相田が表情を変えずに首を横に振る。

 彼女は再び日課という名の素振りを始めた。

 自分の身長よりも長い柄に付いた斧の刃は半月状をしており、俗にいう三日月斧バルディッシュと呼ばれる武器であった。彼女はそれをまるで縄跳びの縄のように軽々と扱い、また蜂や蝶のように自分の体の周りで八の字を描いている。

「見事なものだな」

 夜の寒さで相田の目が少しずつ開いていく。

『ありがとうございます』

 彼女の周囲で舞う斧が、何度も風を切っていた。


 猫亜人(バステト)は、もって生まれた強大な力から、蛮族の中でも戦闘向きの種族である。カレンの許可で倉庫に入ったコルティが、手付かずになっていた古い斧を見付け、いつの間にか素振りが日課になっていたのだという。

 彼女はメイド服という戦いには不向きな漂う布地に、最後まで斧を当てる事なく器用に振り終えると、その速度を次第に緩め、最後は吐く息と合わせて柄の先端を地面に付けた。

 彼女は持っていた斧を、練習用の武器や木刀が飾られている武器掛けに立てかけると、予め置いておいたタオルを取って顔の汗を拭き始める。

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