⑦戦闘という名の虐殺
「そらそらぁ! 近付くと、みーんなぶっとばすぞぉっ!」
フォーネは言われた通りに、手の届く所から弓兵を片っ端に殴り、又は蹴り飛ばした。
弓兵の軽装備では怪力を越えた彼女の一撃を受け止めきれず、地面を何度もはねながら体が千切れていくか、空高く体の一部が舞い上がるかの二択を拒否権なく一方的に選択させられる。
他の兵士達も、それを拒もうと剣を構えてフォーネに襲い掛かろうとするが、空から吐き出された炎は生きた人間を鎧ごと焼き尽くし、直線状に炭化した『人だった何か』が出来上がっていく。
カデリア軍の後方は、たった二匹に翻弄されていた。
「うおおぉぉぉらぁぁっ!」
ついに相田達が、敵の前衛と正面から激突する。
骸骨達は相田の指示で三人一組の小集団を作り、一人が敵を抑え、一人が止めを刺し、最後の一人は周囲を警戒させる連携を取り続けた。
カデリアの兵は異形な姿をした敵に襲われ、士気が著しく下がっていた。あまりの混乱に、無闇に剣を振ってくるが、恐怖を感じない骸骨達は忠実に相田の命令を守り、確実に一人ずつその命を作業のように刈り取っていく。
恐怖を感じない兵だけでも脅威だが、彼らには痛みもない。足や腕の骨が砕かれても、下半身を失っても骸骨達は決して怯まずに変わらぬ攻撃を続けてくる。彼らを無力化させるには、頭蓋骨か胴体を砕くしかなく、しかし混乱し恐怖した兵士達が正確に急所を狙って攻撃できるはずもなく、次々と生者達は錆びた武器の餌食となっていった。
逃げ出す敵にも容赦はしない。
骸骨の弓兵達は戦意を喪失した者や、武器を捨てて逃げる者達にでさえ、その矢を背中に向けて放ち、確実に数を減らしていく。
この阿鼻叫喚の地獄絵図を作った張本人である相田も、その責を果たすべく、積極的に剣を振るい、人を斬り殺し続けた。
魔剣は、大量生産の鉄剣や盾を薄い紙の如く断ち切り、敵兵の鉄鎧ですら、濡れた紙を裂くように切り裂いて、その隙間から血を吹き立たせた。
「次ぃ!」
体から落ちた臓物を踏み、噴き出た血を顔から浴びようとも、相田は口で呼吸を続けながら次の人間に向かって剣を振るう。
剣の能力である『怨嗟の声』で敵の士気はさらに崩壊し、精神力の弱い兵は剣を振る事も受ける事も出来ず、次々と相田に斬り倒されていく。
まるで背丈の高い草を刈るかの如くであった。
時々、攻撃に転じてくる精神力の高い者もいたが、敵の攻撃は相田が気付ける範囲では黒き盾が守り、防ぎきれない視覚外からは味方の骸骨兵が間に入って対処してくれる。
気が付けば千五百人もいたカデリア王国の兵士達は、一時間弱の間にその六割以上を無残に失っていた。




