⑤生者 対 死者
相田の目が大きく開かれた。
「優しさだけで救えないのならば、俺は悪にもなろう! そして、お前達もそうなるべきだ! 違うか!? 死しても尚この国を守り続けるその執念! 今ここで立たずして、何が英霊かっ、この腰抜け共がぁぁぁぁっ!」
言い終えたその瞬間。相田の周囲に黒い旋風が巻き起こった。無数の黒い霧が激しく渦を描き、フォーネはその怨霊の濃さに慌てふためき、相田の服を握って傍から離れないように耐えている。
『………おお。英霊達を全て染め上げるとは』『呪いの奇跡………実に面白い。まさに痛快よ』
黒の剣は周囲の怨霊の力に比例するように『怨嗟の声』を強め、力の領域をさらに広げる。そして広がった領域の影響下で新たに黒い霧が生まれ、領域が拡大、次々と連鎖的に生み出されていった。
「………これが終わったら、必ず花を添えるよ」
相田は剣を地面から抜き、小さな感謝を告げながら立ち上がる。
さすがのカデリア軍も、異変に気付き始めた。
彼らが乗っている馬が急に落ち着かなくなる。理由も分からず、兵士達の顔から冷や汗や悪寒が出始める。そして地面が揺れていないにも関わらず、地鳴りが耳に響き続ける。兵士達は底知れない違和感に気付き始め、明らかに動揺していた。
だが敵の司令官は、時間だと近くの伝令に角笛を吹かせ、全軍突撃の合図を放った。
音に反応し、突撃を開始する前衛。先陣の空気を切り裂くのは、畳んだ傘のような長槍『ランス』を持った騎馬部隊の横列であった。
騎兵槍を地面に水平に構える騎馬隊は、全てを轢殺し、立ち塞がる全てを貫こうと地面を揺らしながら相田達に迫る。
相田からも、槍の先端を向けて突撃する騎馬軍団が見えていた。
だが恐れはない。感情が麻痺したかのように、肩の力が抜け、自然体で立っていた。
「出でよ、死して尚、我と共に戦陣を征く眷属達よ」
全ての黒い霧に自分のイメージをぶつける。
一世一代の大勝負。相田は賭けに勝った。
「ネクロマンス!」
言葉が合図となって土が一斉に吹き出す。
相田の眼前、左右、背後で総勢千体以上の死霊が朽ちた武具と共に顕現した。
息を止め、黒き剣を空高く掲げる。
「建国以来、数百年分の悪霊怨念、英霊精霊の大盤振る舞いだぁぁっ! 行くぞ、お前らぁぁぁぁぁ!」
相田は全軍に大号令を発した。
歴戦の屍達は死しても尚、その統率力を失う事はなく、相田の単純な命令で、長さも形も異なる槍を持った骸達が敵の騎馬隊の幅と同じ横一列に並び、さらにその後方に続くように縦列が組まれていく。
生者の騎馬隊を死者が迎え撃つ。
異常な光景。
骸骨達は長槍の柄を地面に刺し、槍先を騎馬に傾けて姿勢を低くさせる。後方の二列目は先頭の長槍隊を守るように大盾を前面に展開した。




