⑦最悪の未来
最初に押さえられた南の街道よりもさらに南には、黒い石が置かれていなかった。さらに言うならば、最初にカデリア軍を発見した場所から王都に向かって北上するように黒い石は扇状に展開しており、その起点となる黒い石のすぐ横にはオークの大森林が存在している。
「………そういう事かよ」
相田に拳がテーブルを強く押し付ける。
そして近くの兵士が持っていた指揮棒を奪うように借りると、相田は焦る表情を隠しきれずに、『良く聞いてください』と周囲に地図を注目させた。
指揮棒が二国間の大森林を指し示す。
「やはりカデリア軍は、オークの国を通過してきたと考えるべきです」
だが相田の答えに、王女の言葉を聞いていなかったのかと文官達が次々と反論を重ねた。
「馬鹿な。オークは我が国の属領だ!」
「オークの国には我々のような駐在武官や大使を数名派遣している。彼らからの報告は何も来ていないぞ」
武官達の反論も合わさったが、その程度の内容を相田は想定している。
「皆さん、思い出してください」
一息つけさせる。
「つい最近まで、この国は蛮族達と戦争をしていたんですよ? この前まで憎むべき敵だったウィンフォス王国を攻める計画に、オーク達が加担していたって何もおかしくはないでしょう? それに駐在武官や大使といっても、実質大軍を防ぐだけの力はありません。殺されたか、買収されたか、伝令が潰されたか、報告が来ないだけの理由なら色々考える事ができます」
むしろこの状況になっても、未だ報告が来ない方がおかしい。相田の言葉に、武官達の口が動かなくなる。
だが大きな問題はまだこの先にあると、相田は話を続けた。
「もしこれ以上戦火が長引き、こちらが劣勢だと他の蛮族達に知れ渡ったら⋯⋯⋯どうなりますか?」
「………他の属国とした蛮族達が、我が国に矛先を向けてくるかもしれない?」
リリアの言葉に、全員の表情が一気に凍り付く。
相田は彼女の言葉に頷き、さらにと続けた。
「敵はこちらの街道を全て押さえています。これは物資や兵力といった目に見えるものだけでなく、『情報』もです。つまり敵は時機を合わせて王都が陥落した、または陥落しそうだと一斉に情報を流すのを待っています。そうなれば最後、王都は自国の領土内で孤立します」
もしかしたら既に情報を流し、他の蛮族にも行動を唆しているかもしれない。可能性の一つでしかない相田の言葉に、全員が地図を見降ろしたまま息を飲んでいた。
「ですが………活路はあります」




