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Lost12 優しき青年は、冷酷な魔の王になれるのか  作者: JHST
第二部最終章 歴史の選択肢
221/601

②名付け

「フォーネは、決めました!」

 先程の繰り返しかと、相田は同じように『それは何か』と返した。

 フォーネはいきなり相田の前で膝をつき、地面に頭を擦り付けた。

「ししょー、と呼ばせてください!」

「………どうしてそうなる」

 相田はフォーネの頭を上げさせ、丁寧で分かりやすい説明を求めた。

「退魔術を使えなかった私に、ししょーは、一晩で私に自信と退魔の力を与えてくれました。それどころか、様々な技まで教えてくれました! フォーネは………フォーネはししょーにこれからも色々と教わりたいと決めました!」

 覚悟の決まったフォーネの燃えるような赤い瞳を相田は気圧されつつも見つめ続ける。その瞳は決して冗談やその場の感情で決めた訳ではない事くらいは相田にも感じられた。

 相田は持っていた箸を切株のテーブルに置くと、フォーネの前で片膝を付き、彼女の両肩に手を置く。


 既にフォーネには相田達の事情をある程度話している。もしも彼女が仲間になるというのならば、フォーネの格闘家(退魔士)としての戦力は非常に心強い。この後の事を考えれば、この上ない味方となるに違いない。

 だがそれは、彼女に無関係の、最悪人殺しの波に巻き込む事になる。

「………フォーネ。分かっていると思うが、俺は退魔士ではない。専門的な事は何一つ教えられない」

「はい。構いません!」

 相田はもう一つ、と慎重に口を開く。

「俺達が今日これから向かうのは、下手をすれば戦争の、いや人殺しの世界だ」

「はい。ししょーの行く所、例え地獄でもどこまでもお供させて下さい!」

 彼女の瞳は揺らがなかった。フォーネのあまりにもまっすぐで純粋な決意に敵わなくなった相田は、リリアの顔を見上げるが、彼女は真剣な表情のまま小さく頷く。

「分かった。フォーネ、これからよろしく頼む」

「はい! ししょー、よろしくお願いします!」

 相田の言葉にフォーネは大きな声で締めくくる。そして彼女はいきなり大切な白い手袋を外すと、それを相田に渡そうとした。

「ししょー。この手袋は本来一族の紋様が入るはずだったけど、未熟なフォーネには入れる事ができないの。代わりに何か………書いてもらっていいですか?」

「え、えぇ!? 俺がか!?」

 そんな大事な物に書いていいのかと相田は戸惑ったが、彼女の真剣な目に、またも相田は断る事ができず、白い手袋を受け取ったまま彼女に相応しい証を考えるしかなかった。


「………模様、文字………よし、あれでいこう」

 相田は部屋に戻って太めの油性ペンを机の中から取り出すと、机の向かって彼女の右の手袋にアルファベットの『A』、そして左の手袋には『F』の字を丁寧に、昔見たアニメで描かれた丸みと白黒の線を混ぜたフォントで洒落っ気を出し、彼女の気持ちに応えるよう想いを込めながら書き込んだ。


「お待たせ。手書きだから、多少歪かもしれないが」

 部屋から出て来た相田がフォーネに手袋を渡す。フォーネは、手袋の甲の部分に描かれた見た事もない模様をまじまじと見つめていた。

 相田は自分の手の甲を指しながら、その意味を説明する。

「右手の模様は、俺の世界の文字で俺の名前の頭文字を書いた。その文字はエースという最強の意味をもつ。これを付けている限り、お前に砕けない物はない。そして左の模様は同じく俺の世界の言葉でフォーネの頭文字を書いた。俺の世界では『力』を意味する文字だ。強い武闘家………もとい退魔士になりなさい」

「あ、ありがとうございます! めちゃめちゃ大事にします!」

 相田の言葉にフォーネは手袋を空に掲げ、三度(みたび)泣き崩れた。


 彼女の泣き顔を見ながら、相田はリリアに確認する。

「今のは、俺………悪くないよな?」

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