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Lost12 優しき青年は、冷酷な魔の王になれるのか  作者: JHST
第十章 フォーネの大冒険
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⑬勝手な都合

「だが何故じゃ? なぜ、ああも孫を庇う?」

 長老の疑問は、相田の思っていた続きとは異なった。

 思わず拍子抜けする。

「何故って………だって、あいつめちゃめちゃ頑張ったんですよ? むしろ、どうしてその努力を認めて褒めてあげないんですか?」

「それだ。悪しき者は、そんな言葉を用いぬ」

 古い考えに染まった老人と話すのは疲れる。結局会話が振出しに戻るのかと相田は後頭部を掻きながら覚悟を決めるが、意外にも一歩退いたのは長老の方だった。

「もしも悪しき者でないのならば、一つ頼みがある」

「………聞くだけ聞きましょう」

 言い争った関係だけに、相田は口を尖らせながら長老の言葉を待つ。


「孫娘を頼む」

「だったら………それを言うくらいなら、あいつを追い出すなよ!」

 使い古される程に決まりきった展開に、相田は両手を広げて大きな声を上げていた。

 だが長老は首を左右に振る。

「村と一族を維持する為には掟は絶対じゃ。儂個人の考えでは変えられん。それは………分かってくれ」

「自分は安全な所にいながら、一族も孫娘も両方救いたいなんて………都合が良すぎますよ」

 自分勝手な大人だと相田は腕を組み、爪先で地面を何度も叩く。掟の大事さは知識として理解しつつ、そして尊重しつつも、相田は『変わろうとしない大人達』の冷たい姿勢だけは、納得できなかった。

 

 長老はフォーネが返した手袋を相田に託してきた。


「本当に………勝手すぎますよ」

「済まぬ」

 相田は家族を顧みない目の前の老人をこれでもかと罵ってやりたかったが、歯を食いしばった。

 長老から手袋を両手で受け取る。相田は大きく息を吸って吐き出すと額に手を当て、仕方ないと零しながら申し出を受け入れた。

 だが、と相田は長老に向かって指を向ける。

「あいつが将来、一流の退魔士になったら村に入れてやって下さい。すぐには無理でしょうが、それまでには村の中で考えておいてください」

 相田は長老の返事を待つ事なく、背を向けて立ち去った。


―――――――――


 相田は、リリアとフォーネが同じベットの中で向き合いながら寝息を立てている姿を見て、静かに立ち上がった。

 我慢の限界に達したのか、体の水分が枯れるまでフォーネはリリアの胸で泣き続け、遂には力尽きて寝てしまった。今でもフォーネの目の周りは赤くなっている。そしてリリアはそんな彼女を抱き続けながらベットで横になり、そのまま目を瞑る。

 今でもフォーネは時折聞き取れない寝言を口ずさんでは、閉じた目から涙が落としている。


 相田は静かに部屋を出た。そして近場の竈で火を起こし、長い棒で燃えている木の位置を調整しながら、小さな薪を放り投げる。

 火にくべられた薪が不定期に弾ける音だけが、静かな森を退屈にしないでいてくれていた。

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