②退魔士になりたい
「コホン………だが、地図を見る限り、迷うような道じゃないだろう」
咳払いで気持ちを切り替え、相田はフォーネの地図に指を向ける。地図にある彼女の集落らしき場所と試練の場所までは、ほぼ一直線。距離はそれなりにあるものの、余裕をもって往復しても一日程度。間違っても二日間も迷う行程ではない。
この泉も目的地までの目印として丁寧に描かれており、ここからならば目的の場所まで歩いて一時間程で着く。
「ここまで来れば、あとは簡単だ。その場所に行って証を取って帰るだけだろう」
相田が特に悪気もなく事実として答えた。
「そ、そう………ですね。はぃ」
だが、当のフォーネは言葉を返す事ができず、笑顔が下を向くとそのまま目に涙を浮かべ、ついには肩を震わせ始めた。リリアは彼女の肩を包むように優しく撫でながら、泣かせた張本人に向けて眉を寄せて睨み、彼女が泣き止むまで静かに声をかけ続けた。
「え、俺………何か悪い事言った?」
女の子は良く分からない。
ようやくフォーネが落ち着きを取り戻した。
「実は………フォーネは退魔術が使えないんです。だから訓練をしながらここまで来たのに、それでも一向に使えないんです」
「そうなのか………っていうか儀式って、退魔術が使えないのに行かされるものなのか? あ………」
やはり突っ込まざるを得ない。相田の口が勝手に開く。
そしてフォーネが再び泣き止むまでの間、再びリリアに睨まれる結果となった。
「相田、少しは―――」
首を左右に振る彼女から、溜息を浴びせられる。
「分かってる。今のは俺が悪かった………すまん」
相田は両手を合わせた。
―――その日の夜。
相田は部屋の前にある広場でフォーネと対峙していた。
周囲は既に暗く、これからの為に松明をいつもより多く灯している。だが、反ってそれがこの森に存在する怨念や怨霊といった類の黒い霧を、認識しやすくさせていた。
「どうして………こうなったのかっ!」
相田は腕を組み、顔の中心に皺を集めながら、数時間前の流れを思い返す。
フォーネの内容をまとめると、彼女は一族の長の孫にあたる立場であり、その孫が退魔術を使えない事が、彼女の一族としては大きな問題となっていた。
勿論、彼女は退魔の力に目覚めるよう、他の者達よりも厳しい練習を積み重ねてきた。だが、それでも力に目覚める事なく、年齢的に儀式を受けざるを得ない状況に陥ったというのが事の始まりである。
さらに追い打ちをかける様に 儀式を受けない者や失敗した者は、集落にいられなくなる掟もあった。
故にトゥルイエ族は少数でありながらも、強力な退魔の一族として存在している。
一族の掟の為に、力に目覚めようと必死に立ち向かう少女。話を聞き終えた相田は、少なからず存在する自分との接点に、いつしか気持ちを重ね始めていた。




