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Lost12 優しき青年は、冷酷な魔の王になれるのか  作者: JHST
第九章 再びあの場所へ
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⑪旗を折るモノ

「相田、泳いでもいいですか?」

 どこかで聞いていたかのように、リリアが板越しから声をかけてきた。

「………できれば自重してくれ」

 その手のお約束を封じる事に全力を注ぐ。

 だが油断はできない。この手の流れには、これとは別にもう一つのルートがある。


「きゃ!」

「はい、出ましたっ、鬼の二択! 進んでも地獄! 退いても地獄! どっちなんだい!」

 二次元の神からは逃げられない。相田は濡れた頭を抱えた。

 板越しから届けられる女性の驚く声。悲鳴ではない事から、彼女にとって危険な展開ではない程度は理解できる。それでも相田はゆっくりと素数を数えながら精神を落ち着かせ、自分が海パンを履いている事を何度も指さしで確認し、尚且つ、目隠し板の前まで歩いて止まるという徹底振りを見せた。


「リリア。大丈夫か?」

 何があったと、冷静に相田は板越しに尋ねる。

「相田………こちらに来てもらえますか?」

「やべぇ、マジっすか」

 その一言に一体何人の清純で無実な主人公()達が、不幸な最期を迎えてきたか。どんな大義名分を持っていても、無意味に処されていく同志達を何人も知っている以上、相田は迂闊に足を踏み出す事ができずにいた。

 相田は入っても大丈夫かと、念を押してリリアに尋ねる。

 彼女の許可を数度受け、ようやく相田は大きく深呼吸をしてから板の横から顔を覗かせた。


「………人が倒れています。」

 相田が見た最初の光景は、白いバスタオルで身を包んたリリア王女だった。タオルで包み切れない雪の様な白い肩や、太ももに沿って落ちていく水、そして濡れた銀髪と眼鏡から垂れる雫が、男心を激しく刺激させてくる。

 だが、それに長時間見とれてはいけない。相田はその光景を心のアルバムにそっとしまい込むと、自然体の様に、彼女が指さす方向に視線を向けた。


「確かに、誰か倒れているな」

 距離にして十メートル程度。正確な様子は掴めないが、人らしき誰かが倒れているくらいは分かる。

 だがここは、動くものが入れば命はない魔女の森。

「リリアはそこにいてくれ。俺が見に行く」

 相田は一度剣を取りに対岸に戻ると、濡れたままの足で無理矢理靴を履き、倒れている人影へと向かった。

 そして、剣の柄に手を伸ばしながらさらに近付くと、まず最初に荷物袋と旅人らしい安物の服を着た格好が目に入る。次に目に留まったのが、頭から伸びた二本の長い白耳。最後にズボンの臀部から生えている白い毛玉であった。


 相田はこれらの情報から、ある動物が思い浮かぶ。

「何だ、兎か」

 今まで猫や犬、蜥蜴を基本ベースとした人型の種族は見てきたが、兎は初めてだった。

 だがどんな存在であれ、この森に長く居ては助からない。生きているならば、早急に森から出す必要がある。相田は倒れている兎人間の肩に手を置き、揺らす強さを変えながら声をかけた。

「おい、大丈夫か? むむ、返事がない、ただの―――」

 決まった表現を言い終える前に、兎人間は何やら苦しそうに口を開き、何かを呟き始める。

 相田は相手の口元に耳を近付けた。


「………お腹………減った」

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