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Lost12 優しき青年は、冷酷な魔の王になれるのか  作者: JHST
第九章 再びあの場所へ
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⑦昼食の話題

 初日こそ慌てたような食事しか用意できなかったが、三日も経てば、色々と手を加える余裕が生まれてくる。目の前にある焚き火も、周囲に石を積み込んだかまどとして改良した。

 水の確保も重要であった。

 飲み水だけでなく、洗面や洗濯、さらには排泄等、水はあらゆる所で使用する。どんなに節水したとしても、シリアから預かった水だけでは到底足りず、相田はかつて彷徨っていた時に見つけていた湧き水を利用していた。それでも、水源までは片道三十分以上の距離がある為、毎日数回に分けて水源まで向かい、いくつかの桶に溜めている。大きな負担ではあるが止むを得ない。

 トイレは少し離れた所に深めの穴を掘って対応した。さらに目隠しとしての木と草を周囲に編み込み、彼女の為に多少の配慮を試みている。異世界転生の主人公達と比べれば、かなり拙い出来だが、ないよりかはマシである。

 部屋に置きっぱなしだった専門書を参考にしつつも、経験と技術力のない相田では、これが精一杯の出来だった。


「よし、できたぞ」

 相田は薄く削った木の器の中に、焼いたパンとハム、目玉焼きの順に乗せていく。別の器には薬草を軽く洗って千切り、香辛料と塩を振るだけで完成する。

 相田は出来上がった昼食を部屋まで運び、部屋の中央に移動させた机を挟み、ベッドに座るリリアと向き合うように腰かけた。


「「いただきます」」

 互いに手を合わせる。

 初めは手を合わせる意味を知らなかったリリアだったが、その意味を知ってからというものの、自然と手を合わせるようになっていた。

 相田は部屋に残してあったコップに水を汲み、質素な昼食を二人で口にし始めた。量的には物足りないが、今後の事を考え、相田は七日分の食料を八日ないしは九日分だと思って節約していくと決めている。


「もう体は大丈夫なのか?」

 なるべく噛む数を増やし、時間をかけながら腹を満たそうとしていた相田は、目玉焼きを口に入れかけているリリアに話を切り出た。

 彼女は口の中に入れた目玉焼きを小動物のように小刻みに吸い込み、膝元の小さなナプキンで口を軽く拭ってから口を開く。

「えぇ、もう随分と良くなりました。走る事はまだ厳しいですが、日常生活を無難に送れる程度には回復しています」

「そうか。何か必要なものとか、困った事があったら遠慮なく言ってくれ」

「はい、ありがとうございます………取り敢えずは、このままで大丈夫です」

 ぎこちなく会話が終わり、二人は食事を続けた。


 魔法封じの腕輪によって、リリアは森の影響を受けずに過ごしている。森の中は動物が存在できない為、肉を手に入れられない事が惜しまれるが、相田はこの森の薬草の豊富さに驚かされていた。

 リールやシリアから教わったものや訓練で得た知識だけでも、毒消し、傷薬、鎮痛剤等、多種多様な薬草が豊富に自生している。相田は時間を見つけては薬草を収穫し、練習がてら薬品の調合と、野菜の代替として利用させてもらっていた。


「あと、四日ですね」

「順調にいっていれば、今頃王都に着いた頃だな」

 願うなら、互いの兵士達が国境から撤収してくれる事が最も良い知らせである。カデリア王国との摩擦はしばらく尾を引くだろうが、戦争以外の方法で解決してくれれば良い。そんな話を相田とリリアはここ数日交わしてきた。

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