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⑤酷似する事件

「………良く戻ってきてくれたね」

 ガーネットの呼吸が落ち着き、目を瞑るまで傍にいた相田が戻ってくると、シリアは焚き火で軽く炙った干し肉を串ごと手渡した。

「ですが、カデリア王国との間に小さくない問題を起こしてしまいました」

 相田は草の上に座ると、もらった肉を小さく齧る。

 そう言えば久々の食事だったと、相田は柔らかくなった干し肉を口の中で丁寧に噛みしめた。唾液と共に肉の旨味が口から喉へと、そして空になった胃袋に落ちて広がっていく。

 落ち着いていくと、自分があの城で何をしてきたのかを相田は思い出し、額に手を当てて沈黙するしかなかった。


「ま、あんたがやらかさなくとも、それは時間の問題だったろうね」

 シリアが火の中に枝を放り込む。

 リリアはたき火の温かさが十分に伝わる場所で、毛布に包まれながら横になっている。

 熱は相変わらず下がらない。解熱剤を飲んでいるが、その熱さは人間の限界に近い。

 シリアは水筒の水を綺麗な布に含ませて王女の口に当てると、僅かに彼女の唇が動いた。

 彼女もまた必死に戦っている。


「そう言えば、まだこっちの状況は伝えていなかったね」

 シリアは、ウィンフォス王国が国境まで進軍してきた理由を話し始めた。

 それは、ウィンフォス王国側でも、グランバル王の暗殺未遂事件が起きたからである。

 だが、カデリアの事件とは異なり、ロデリウスの功によって事件そのものは未然に防がれ、暗殺者が潜む拠点を先に襲撃した事で解決に至っている。

 暗殺者達はその場で全員が戦死または用意した毒で自害した。だが、拠点からカデリア王国の印の入った書面が発見された事で、その真意を正すべく、ウィンフォス王国のグランバル王は、数個騎士団を国境沿いに派遣、そこから使者を通じて、娘であり大使として滞在していたリリアの速やかな保護と帰還を計画立てていた。


「それは………あまりにも似すぎていませんか?」

「私もそう思う」

 焚き火の中の枝が高い音を立てる。

 国王の暗殺計画、そしてそれぞれの国印が入った公文書の発見。カデリアで起きた事件と全くと言っていい程に酷似していた。

 これは偶然に起きた事件ではないと、シリアが答えを導く。

「では、カデリアの印の入った書面も?」

「あぁ。間違いなく本物だと鑑定されている」

 シリアが小枝を火の中に複数放り込むと、火花が軽く巻き上った。

「もう少し遅かったら、両国はなし崩し的に戦争を起こしていたかもしれない」

 だから相田の行動はギリギリのタイミングで、ギリギリの判断だったと彼女が珍しく褒める。

「今頃、隊長は他の騎士団長に事態を報告し終え、部隊の後退を提案しているだろう。上手くいけば、国境沿いでの緊張は解けるはずさ」

 後は外交面で誤解を解いていけばいい。シリアは自分の干し肉を齧る。


「そういえば、グランバルの王様は国境には来ていなかったのですか?」

「あぁ。本当は常に最前線に立つのが陛下のこだわりなんだが、また暗殺者が現れるかもしれないと出発前の御前会議で文官達が猛烈に反対したと聞いている。さすがの陛下も、彼等の言葉を無碍にする事はできず、今は王都で王女殿下達の帰りを待っている」

 シリアが口を閉じると辺りは静寂に包まれ、焚き火の間から漏れる虫の音くらいしか聞こえない。


 たき火が主張するように音を立てた。


「サージンさんも無事だと良いのですが」

 相田はリリアを救出したが、恩人でもあるサージンを街に置いていってしまった。今更ではあったが、当時の相田に王女以外の事を気にかける余裕がなかった。

「それに関しては何も問題ない。あいつはその手の行動が一番得意だからね」

 むしろ一人の方が楽だとシリアは優しく笑う。

「さぁ、今夜の番はあたしがやろう。あんたはもう寝な。どうせろくに寝てやしないんだろう?」

 酷い眼をしていると、彼女が微笑しながら相田の状態を見破る。

 相田はシリアの言葉を素直に受け止め、そのまま草の上で横になった。リリア王女の警護を任されて以来、舟を漕ぐ事はあっても、横になれる事は一度もなかった。

 目を瞑ると、相田は数分もしない内に意識が遠のいていった。  


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