②祭りの後
「我が国は、蛮族達との戦いに勝利し、この半年でかなりの領土を広げてきました。しかし、それは本当に正しかったのでしょうか?」
リリアがテラスの外に顔を向けたまま呟く。
決して臣下に向かっては口にできない言葉。リリアは相田にだけ零していた。それは愚痴でもあり、王族としてこの国の将来を憂いての発言でもあった。それ故に、相田もその言葉を適当に流す事なく、その都度真剣に答えてきた。
「支配する、支配される事よりも、相手をどれだけ理解するかが大切なんじゃないか?」
「相手を理解、ですか………」
彼女の顔が正面に戻る。
相田は小さく頷く。
「相手を理解できれば、支配する必要もないかもしれないし、支配していたとしても、相手を理解できなければ必ず溝ができる。俺のいた世界でもそうだった………きっとこの世界の歴史も、その繰り返しなんだと思う」
リリアはカップに残った紅茶の覗きながら相田の話を聞き入れ、カップの淵をなぞる。
「そうですね、そうかもしれません」
眼鏡の位置をくいと戻す。
リリアはこの国をどう考えているのか。相田は時々気になる事もあったが、その問いかけは友人としては違和感があり、立場としては不相応であり、いつも聞く事を躊躇っていた。
それからは特に大きな話題もなく静かに時間を過ごし、メイド長からそろそろ時間だと声がかけられて解散となった。
「また、来てくれますか?」
王女の顔は穏やかであり、どこか寂し気であった。
「ああ、友達になったからな。暇そうにしていたらまた呼んでくれ」
――――――――――
―――どうしてこうなってしまったのか。
最後のお茶会の会話を思い出していた相田は、廊下の椅子に座りながら考え込む。
昨日、今日だけでも色々な事が一度に起き過ぎた。相田はとにかく情報を整理しようと、その発想は何度目かと思う程に、頭の中で思考と記憶を巡らせる。
リリア王女暗殺疑惑の一報。しかし実際に起きた事件はカデリア王国のパーカス王の暗殺未遂。暗殺者が持っていたウィンフォス王国の印が入った本物と思しき公文書。止めに、ウィンフォス王国の王国騎士団が国境への接近。
「ガウ………何故お前だったんだ」
相田は自分の身の回りで起きた部分だけに絞って考え直す。使用人宿舎付近で起きた殺人事件、ガウが相田に近づいた理由。暗殺者の正体が彼であった事。
最悪の仮定として考えるならば、相田の正体がバレており、何者かによってガウを接近させて親しい関係を作り、結果としてウィンフォス王国の立場を悪化させるという流れがある。だが、何一つ証拠はなく、想像の域を出ることはない。ましてや、本物らしき公文書を入手できる時点で、かなり組織的、長期的な計画でなければ話が通らない。
偶然な事もあるのかもしれないが、情報や証拠が圧倒的に足りない。相田は結局同じ場所で思考が止まる。
拝謁の儀から半日近くが経ち、既に日が落ちてから数時間が経過していた。
 




